過活動膀胱

横浜市都筑区の木村泌尿器皮膚科です。


過活動膀胱

2002年の国際禁制学会で定義された「過活動膀胱」は、オーバーアクティブ膀胱を直訳したもので、過度に活発な膀胱、活発すぎる膀胱という意味です。
新しい定義では、「尿意切迫感を有する状態を意味し、通常、頻尿・夜間頻尿を伴い切迫性尿失禁の有無は問わない」ということになっています。
従来の「不安定膀胱」が、「膀胱内圧測定で蓄尿期に不随意的な排尿筋収縮を伴うもの」と定義され、自覚症状よりも他覚的な所見を重視していたのに対し、「過活動膀胱」は尿意切迫感という症状を重視しています。

日本排尿機能学会が2005年に過活動膀胱診療ガイドラインを作成しました。それによると
過活動膀胱とは突然、止めようのない強い尿意が出現する“尿意切迫感”を有する状態としています。
通常、頻尿(昼間8回以上、夜間1回以上)を伴いますが、時に切迫性尿失禁(急に強い尿意が起こり、トイレで排尿するまで我慢できず、尿を漏らしてしまう)も認められますが、これらは診断の必須条件ではありません。
ただし、細菌性膀胱炎・前立腺炎・尿道炎、間質性膀胱炎、膀胱癌・前立腺癌など、局所の疾患は除外します。
一方、神経因性膀胱と前立腺肥大症などは、過活動膀胱の原因としてあげられます。
2007年夏号のクリニックQ&Aの過活動膀胱の記事 48才男性からの質問
メトロガイド2007年10月号の過活動膀胱の記事 チェックシートで自己採点
夕刊フジ2007年11月21日号の過活動膀胱の記事 58歳男性からの質問
2009年3月号すこやかファミリーの過活動膀胱の記事 26 歳女性からの質問
港北OABフォーラム2007の講演内容 間質性膀胱炎との症状の違い
第15回横浜臨床医学会学術集談会の講演内容 他科ドクター向けの内容
横浜市薬剤師会特別研修会の講演内容 薬剤師向けの内容
テレビ神奈川「ありがとッ」.健康最前線. 視聴者向けの内容

過活動膀胱治療薬を処方する上での診療ガイドラインの問題点
過活動膀胱の治療薬には、ベシケア(アステラス製薬)、デトルシトール(ファイザー)、ステーブラ(小野薬品工業)、ウリトス(杏林製薬)があります。
これらは、尿意切迫感・頻尿・切迫性尿失禁には、バップフォー(大鵬薬品)と同等もしくはそれ以上の効果があるようです。
バップフォー(大鵬薬品)の適応症は、神経因性膀胱・神経性頻尿・不安定膀胱・膀胱刺激状態における頻尿・尿失禁ですので、 間質性膀胱炎・膀胱癌・前立腺癌・前立腺肥大症・前立腺炎の患者さんにも処方可能です。
ベシケア(アステラス製薬)、デトルシトール(ファイザー)、ステーブラ(小野薬品工業)、ウリトス(杏林製薬)の適応症は、過活動膀胱です。
そして過活動膀胱の診断は、細菌性膀胱炎・前立腺炎・尿道炎、間質性膀胱炎、膀胱癌・前立腺癌などを除外します。
つまり、細菌性膀胱炎・前立腺炎・尿道炎、間質性膀胱炎、膀胱癌・前立腺癌などで、膀胱刺激状態になって頻尿・尿失禁を起こしている患者さんには バップフォー(大鵬薬品)は処方できるが、ベシケア(アステラス製薬)、デトルシトール(ファイザー)、ステーブラ(小野薬品工業)、ウリトス(杏林製薬)は処方できないことになります。
前立腺肥大症と前立腺癌・前立腺炎、どちらも局所の疾患ですが、どうしてここで線引きしたのでしょうか?
前立腺肥大症に伴う尿意切迫感は「過活動膀胱」と診断してよいが、前立腺炎に伴う尿意切迫感は「過活動膀胱」と診断してはならないことになります。
前立腺炎を除外しているのを、細菌性膀胱炎としてほしいところです。
診療ガイドラインを遵守するなら、前立腺肥大症には処方できるベシケア、デトルシトール、ステーブラ、ウリトスが、慢性前立腺炎には処方できないことになります。
間質性膀胱炎の人にもベシケア、デトルシトール、ステーブラ、ウリトスを処方できないことになります。
「過活動膀胱診療ガイドラインは日本排尿機能学会という1学会が作成したに過ぎず、保険医の保険診療を拘束する力はない」、と信じて、前立腺炎の人に、過活動膀胱の病名をつけ、 ベシケア、デトルシトール、ステーブラ、ウリトスを処方する、というのもひとつの対処法ですが、保険審査を担当する医師の判断によっては、薬剤費が査定される可能性はあります。

2006年6~7月、2007年6~7月、2008年4~5月に当院で発行した処方箋枚数は
期間
2006年6~7月
2007年6~7月
2008年4~5月
2008年7~8月
ベシケア
18
36
49
40
デトルシトール
17
32
57
41
ステーブラ&ウリトス
未発売
22
16

でした。詳細はこちらこちらをご覧下さい。

2011年秋、過活動膀胱の治療薬にベタニスが加わりました。
2013年春、過活動膀胱の治療薬にトビエースが加わりました。
2013年夏、過活動膀胱の治療薬にネオキシテープが加わりました。
2018年秋、過活動膀胱の治療薬にベオーバが加わりました。
2020年に「ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法」が保険適応となりました。
間質性膀胱炎との関係
国際禁制学会はヨーロッパの医師が多く参加する会です。したがってヨーロッパでは頻尿で苦しむ人たちは「過活動膀胱」と診断されます。
一方、アメリカの医師は頻尿で苦しむ人たちを「間質性膀胱炎」と診断します。
日本の医者は「過活動膀胱」と「間質性膀胱炎」がかなり重複していることを承知していながら、アメリカの学会に出席するときは「間質性膀胱炎」という病名を、国際禁制学会に出席するときは「過活動膀胱」という病名を使いわけます。

過活動膀胱・間質性膀胱炎・慢性前立腺炎はかなり似た病態に付けられる病名です。
ベシケア・デトルシトール・ステーブラ・ウリトスが頻尿・尿失禁治療薬として適応を取れるよう、アステラス製薬・ファイザー・小野薬品工業・杏林製薬にがんばっていただきたいところです。

頻尿


尿失禁