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木村明:女性の排尿の悩みー頻尿、尿失禁.だいじょうぶ,1月号,p128-129,2000.


頻尿


尿失禁



 尿がもれる状態にも,急に走ったり、なわとび,せき、くしゃみをした時にもれる腹圧性尿失禁,おしっこをしようと思うと、トイレまで間に合わない切迫性尿失禁,出そうとしても少しずつしかおしっこが出ず、たえずダラダラ出る溢流性尿失禁など機序の異なるものがあり,それぞれで治療が異なるので,ここでは項目を分けて説明します。
Ⅰ腹圧性尿失禁
 くしゃみをしただけで漏れる、スポーツや旅行もできないなど、尿失禁に悩む女性が増えているようで、四十代、五十代の女性では、三人に一人が尿失禁を経験しているというアンケート調査結果もあります。
 これまでの泌尿器科医は,尿が出ない方の病気には熱心でも,もれる方は出ていれば結構と,あまり関心を示さず、患者自身も 羞恥心のため病院を訪れることが少なかったのですが、最近ようやく尿失禁も医療の対象となってきました.ただし,これも治療を希望する日本女性が増えたからではなく,WHOが医療の重点項目に取り上げたのに日本の泌尿器科医も刺激されて真剣になったからですが.
 尿失禁の中で特に女性に多くみられるのは、くしゃみ、咳などでりきんだ時や、飛び上がったり、走ったりする時、立ち上がろうとした時、笑った時などに限って尿が漏れる、腹圧性尿失禁です。進展例では、歩いただけ、立っているだけでも失禁してしまい,このため、くしゃみや咳が出ないように常に気を張っていたり、おもしろいことがあっても笑えず、精神的にもひどく落ち込んだり、仕事やスポーツを止めたり、家事も十分にやれないとか、性生活を拒否したり、家にこもり切りになったりするようになります。
 腹圧性尿失禁の原因は,尿道括約筋のゆるみです.人間の膀胱は、尿道につながる出口の部分に尿道括約筋と呼ばれる筋肉が取り巻いています。尿道括約筋が正常な場合、膀胱に尿がたまっている時、出口を締めつけ、排尿時にロート状になって、尿道へ通じる仕組みになっています。ところが女性では、この括約筋の発達が弱く、また尿道の長さも男よりも短いため、腹圧がかかった場合、その力が直接膀胱の出口に伝わって、尿道をおしひろげる作用をします。出産や加齢により骨盤の筋肉が弱くなることも尿失禁の要因となります。
 ここでもう一度,?ページに戻って,男性と女性の膀胱の出口のところの違いを復習しておいて下さい.男性の尿道というのはほぼ20cmの長さで,しかもまわりをいろんなものが取り囲んでいて,しっかり固定されています.一方,女性の尿道は約3cmのストンとした管で,しかも後ろにある膣は壁が薄く,出産や老化でゆるみやすいのです.
 腹圧性尿失禁が,女性にだけ起こるのは,このような構造の違いのためです.その代わり男性は膀胱の出口にある前立腺(精液を作っている所で女性にはありません)が年齢とともに大きくなって,排尿困難をおこすことがあります.この次に説明する前立腺肥大症という病気です.それを考えれば,男女とも一長一短というところではないでしょうか.

治療法

 軽い腹圧性尿失禁の場合は、尿道の周りにある外尿道括約筋や骨盤底筋群を体操で強くすることで、かなりの改善が期待できます。肛門をしめる、排尿を途中で止める練習をするなどの運動を繰り返すことにより,骨盤の筋肉を強化します。骨盤底筋体操とか,失禁体操と呼ばれています.肛門をしめるのは,人前でおならが出そうになるのを我慢するときのように力を入れてみて下さい.数秒しめてはゆるめるのを十回繰り返します.しめる場所がわからない方は、おしっこのとき尿を止めてみて下さい。ゆるんでいる場合は完全に止まりませんが、尿の勢いが弱くなって場所がそうです。ときどき尿を止めてみると、運動の効果もわかります。でも、あまり何度も止めると尿が出にくくなったりしますので、ときどき確かめる程度で十分です。
 この運動を、寝ころがって,座って,立って,前傾姿勢で,それぞれ十回ずつ繰り返します。こう聞くとうんざりしますが、新聞を読んでいるとき,信号を待っているとき、歯を磨くているとき、乗り物に乗っているときなどいつでもできますから、習慣にしてしまうとらくにできます。骨盤底筋体操と一緒に背筋や腹筋も鍛えることをお勧めします。歩くときには早足で背中を伸ばすよう気をつけることも役立ちます。
 薬物では、腹圧制尿失禁の治療には尿道をしめる薬が有効ですが、残念ながら今はまだ有効な薬が多くありません。塩酸エフェドリンという薬が尿道の筋肉をしめる作用をしますが,血圧を上げることがありますので、高血圧の方には使えません。これが効く人でも,薬物療法は一時しのぎの意味が強くけっして根本的な治療ではありません。エフェドリンで尿失禁が軽くなっても、骨盤底筋体操をやめてしまっては本末転倒です。骨盤底筋体操と併用すると良いでしょう。
 重い腹圧性尿失禁,すなわち、日常生活でも失禁がみられ、生活上支障をきたすの方や、骨盤底筋体操で満足な結果が得られなかった方には、手術があります。膀胱を後ろから支える手術です。いろいろな手術方法がありますが「TVT」と呼ばれる方法は,特殊な長い針を用いて腹筋を貫いて尿道の裏にテープを通し、筋肉がゆるんでたれ下がった膀胱と尿道を後ろから支えるもので,皮膚切開が小さく、手術時間も1時間以内で、入院も4-5日ですみます。

Ⅱ切迫性尿失禁

 我慢がきかなくてももれるタイプで、トイレまで我慢できない,下着をおろそうとしている間に出てしまうといったものです.女性の尿失禁の中では、腹圧性尿失禁に次いで多いものです。普通は、頻尿を伴います。
 切迫性尿失禁のある人は、間質性膀胱炎などで膀胱の容量が普通より小さくなっていたり、不安定膀胱とか過活動膀胱とかで、意思に反して膀胱が勝手に収縮したりする状態になっています。
 脳梗塞などによって大脳で膀胱の収縮をおさえる働きが低下していて切迫性尿失禁になっている人もいます。

治療法

 膀胱容量を増し、膀胱が勝手に収縮するのをおさえる薬が有効です。抗コリン剤が、かなりの場合、有効です。抗コリン剤とは、膀胱を収縮させる神経の働きを抑えて、膀胱が勝手に収縮するのを止め、膀胱容量をふやす薬です。大きな副作用はありませんが、口がかわき、便秘が起こることがあります。通常はそのまま、あるいは量を減らして続けていると気にならなくなります。あまり副作用の強いときは中止します。
 膀胱訓練、電気刺激療法、神経ブロックなども行われていて,有効な場合もあります。

Ⅲ溢流(いつりゅう)性尿失禁

 排尿困難が強く、膀胱内にのっこた大量の尿が溢れ出るようにもれるというものです。いつも膀胱内に残尿があるため、頻尿になりがちです。女性では老人を除いてかなり稀です。
 膀胱神経の異常や男性の前立腺肥大症などで、排尿困難や多量の残尿が生じた場合に起こります。腎臓の機能の低下、尿路感染症をもたらすことがあるので、注意が必要です。

治療法

 とにかく残尿をなくすことが先決です。それには、1日に数回細い管を自分で挿入して尿をだす自己導尿や尿道に管を入れたままにする留置カテールなどの方法があります。尿道をゆるめる薬や膀胱の力を強める薬が有効なこともあります。もちろん、前立腺肥大症など,原因になっている病気が治療可能なものであれば、その治療を行ないます。
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