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過活動膀胱について

木村 明

第15回横浜臨床医学会学術集談会(横浜)

平成19年12月1日


過活動膀胱とは「急に尿意をもよおし、我慢するのが難しい」 「トイレが近い」「急にトイレに行きたくなり、我慢ができず 尿が漏れてしまうことがある」などの症状を示す病気です。 膀胱には、畜尿という役目と、排尿という役目があります。膀 胱の筋肉が収縮しないはずの畜尿期に、膀胱が勝手に収縮する のが、過活動膀胱です。尿道の力が弱ければ、失禁を生じます 。
過活動膀胱の原因には、脳出血やパーキンソン病のような神経 の病気、前立腺肥大症など尿路閉塞のために膀胱が過敏になっ ている場合などがあります。
治療には抗コリン薬が使われます。従来、前立腺肥大症に抗コ リン薬を処方する事は、尿閉を誘発するとしてあまり行われて きませんでした。しかし最近、前立腺肥大症に伴う過活動膀胱 に、α遮断薬と抗コリン薬を使うとQOL向上に有効である事が 明らかになってきました。α遮断薬と抗コリン薬との併用とい う一見矛盾する処方は他科の先生方には理解しにくい面もある と思われます。当日の口演では、α遮断薬と抗コリン薬との併 用について、海外の大規模前向き試験の結果と、当院での経験 を紹介する予定です。


(スライド1)
過活動膀胱とは「急に尿意をもよおし、我慢するのが難しい」「トイレが近い」「急にトイレに行きたくなり、我慢ができず尿が漏れてしまうことがある」などの症状を示す病気です。
(スライド2)
膀胱には、畜尿という役目と、排尿という役目があります。膀胱の筋肉が収縮しないはずの畜尿期に、膀胱が勝手に収縮するのが、過活動膀胱です。尿道の力が弱ければ、失禁を生じます。
(スライド3)
畜尿期に膀胱が不随意収縮するのは不安定膀胱と言いますが、この診断には膀胱内圧測定が必要です。過活動膀胱は症状だけから診断してよい病気です。
(スライド4)
過活動膀胱の診断には、神経疾患がないことからスタートし、検尿で血尿があれば、膀胱がんかもしれないので専門医へ、膿尿があれば膀胱炎として治療。どちらもなければ、残尿をチェックして、残尿が少なければ、抗コリン薬を投与します。
(スライド5)
残尿のチェックは腹部超音波で簡単にできます。
(スライド6)
動物は闘いの最中は排尿せず、休息の時に排尿します。ですから、アドレナリンは蓄尿に、コリンは排尿に働きます。過活動膀胱の治療には抗コリン薬が使われます。
(スライド7)
過活動膀胱は、前立腺体積とは無関係に診断されます。
では、頻尿が主訴で、尿がきれいで残尿がなければ、前立腺肥大症にも、抗コリン薬を投与してよいのでしょうか?
(スライド8)
胃内視鏡の前処置でブスコパンを注射する看護師さんは
「緑内障、前立腺肥大症はないですか ?」
と必ず問診します。
抗コリン薬は前立腺肥大症に投与してはいけないというのが常識です。
(スライド9)
しかし、前立腺肥大症では排尿筋過活動を伴うことが多く、50~75%が尿意切迫感などを有する、ことがわかっています 。
(スライド10)
前立腺肥大症に良く使われるのは、α1ブロッカーですが、最近、前立腺肥大症に伴う過活動膀胱に、α1ブロッカーと抗コリン薬を使うとQOL向上に有効である事が明らかになってきました。α1ブロッカーと抗コリン薬との併用という一見矛盾する処方は他科の先生方には理解しにくい面もあると思われます。
(スライド11)
アメリカ国内で行われた大規模前向き試験では、前立腺肥大症に伴う過活動膀胱症例879例を、プラセボ、抗コリン薬、α1ブロッカー、抗コリン薬およびα1ブロッカーの併用の4群にわけ、12週間フォロー。
(スライド12)
治療を「有益」と評価した患者の割合は併用群、α1ブロッカー群、抗コリン薬群、プラセボ群の順でした。
(スライド13)
当院の症例を紹介します。
2006年5月、頻尿(夜間5回)、残尿感で来院。
超音波で前立腺体積は22mlと軽度の前立腺肥大を認めました。
(スライド14)
尿流測定にて勢いはやや低下していました。α1ブロッカー(アビショット 50mg:アビショットはハルナールより夜間頻尿には有効と言われているので)の投与にて、勢いは改善するも夜間頻尿5回は不変でした。α1ブロッカー(ハルナール0.2mg)と抗コリン薬(デトルシトール2mg)の併用したところ、夜間頻尿は2回に減少。勢いも悪化しませんでした。
(スライド15)
先生方のクリニックに通院中の患者さんの中には、前立腺肥大症で泌尿器科医にかかっている方もおられると思います。そこでα1ブロッカーと抗コリン薬を同時に処方されていても、へんな処方をする医者だな、と患者さんの前で言わないようによろしくお願いします。
なお、高齢男性に検尿と残尿測定だけで抗コリン薬を処方すると尿閉になることはあります。先程のガイドラインには前立腺体積の計測は含まれていませんでしたが、やはり高齢男性の場合は、一度は泌尿器科にコンサルトしていただくのが安全であろうことを申し添えさせていただいて、私の講演を終えます。ご清聴ありがとうございました。