木村泌尿器皮膚科

過活動膀胱.クリニックQ&A,夏号,p18-19,2007.

オシッコががまんできず、頻繁にトイレに行かなければならない

Q.48才男性。最近「オシッコがしたい」という衝動にかられると、
がまんできなくなってしまいます。
漏れるのが心配で、しょっちゅうトイレに行ってしまいます。
これって病気でしょうか?


回答者 木村泌尿器皮膚科院長
木村明


膀胱が勝手に収縮してしまう。
男女比では男性にやや多い



この方の症状は、典型的な過活動膀胱です。
過活動膀胱とは「急に尿意をもよおし、我慢するのが難しい」「トイレが近い」
「急にトイレに行きたくなり、我慢ができず尿が漏れてしまうことがある」
などの症状を示す病気です。
膀胱には、尿をためる(畜尿)という役目と、
たまった尿を全部出し切る(排尿)という役目があります。
排尿時には膀胱壁の筋肉が収縮します。
畜尿期には、膀胱の筋肉は収縮しません。
しかし、尿が少したまった段階で、大脳の命令を聞かずに
膀胱が勝手に収縮するのが、過活動膀胱の原因と考えられています。
膀胱内の圧が突然上昇しますので、尿が漏れないように、
意識的に尿道を締めなければなりません。
尿道の力が弱ければ、もらしてしまうことになります。
膀胱が大脳の命令を聞かずに勝手に収縮する原因には、
脳出血やパーキンソン病のような神経の病気、
前立腺肥大症など尿路閉塞のために膀胱が過敏になっている場合、
などがあります。若い人では、原因がない場合もあります。



日本には、810万人(人口の12.4%)の過活動膀胱の患者さんがいらっしゃる、
という疫学調査があります。図のごとく、加齢に伴い増加します。
男女比では、男性にやや多いのですが、尿失禁を伴う重症例は、
女性に多い、しかも高齢女性ということが分かっています。
女性は男性より尿道が短いので、膀胱の筋肉が突然収縮すると、
尿道の力では抑えきれず、尿が漏れてしまうのです。


診断に必要な検査は尿検査と腹部超音波検査

過活動膀胱と似た症状を起す病気に、膀胱がんや前立腺がんなどもありますので、
これらの病気でない事はあらかじめ調べておく必要があります。
過活動膀胱の診断・治療に必要な最低限の検査は、尿検査と残尿測定です。
尿検査で、血尿(膀胱癌)や細菌尿(膀胱炎)がないかを調べます。
その後、腹部超音波検査で膀胱が空っぽになっているか(残尿がないか)をチェックします。
治療には膀胱の収縮を抑える抗コリン薬が使われます。
ただし、抗コリン薬を、残尿が多い人に処方すると、
尿閉といって排尿できない状態になることがあります。
したがって過活動膀胱の診断では、残尿がないかのチェックが必要なのです。

排尿日誌(図)をつけてもらうと、1回の排尿量や1日の尿量がわかります。

1日尿量は1.5リットル程度が普通ですが、
水分を取りすぎている人では、1日尿量が2リットル以上の方もおられます。
そういう方には、飲水制限を指導します。

尿失禁を伴う女性の方には、骨盤底筋体操を指導します。


薬は医師の指示通りに。しばらく通院が必要

膀胱は泌尿器科があつかう臓器ですが、
女性の方は泌尿器科受診に抵抗があるかもしれません。
過活動膀胱に必要な検査は検尿と腹部超音波検査だけですので、
これらの検査ができる診療所であれば、内科・婦人科でも大丈夫です。
薬と生活指導で、過活動膀胱の症状はかなり改善されます。
ただし、一定期間薬を飲めば、それで治ってしまって、薬を中止できるか、というと、
これは一般論では難しい、ということになります。
特に脳出血のような病気がベースにある方では、薬を中止できない場合が多いようです。
一方、若い人で原因になる病気がない人では、薬を中止しても再発しない方もおられます。
ただし、症状が落ち着くまで薬を続け、様子を見ながら、次第に薬を減量するので、
しばらく通院してもらう必要があります。