慢性前立腺炎の中には間質性膀胱炎も

横浜市都筑区の木村泌尿器皮膚科です。



慢性前立腺炎に手術は有効か

私見:慢性前立腺炎の中には間質性膀胱炎の人がいる。その人たちには膀胱水圧拡張術が有効と思われる。 膀胱水圧拡張術は効果が持続しない、という欠点があり、それを改良するための手術法にチャレンジしている医者が存在する。 (2009.2.26時点での私見)

慢性前立腺炎は前立腺が原因の病気?

2003年のNickelらの論文以降、慢性前立腺炎が前立腺に原因があるのかどうかがすごくあやふやとなりました。

慢性前立腺炎は間質性膀胱炎と同じ病気?

2004年には、chronic pelvic pain syndrome(慢性骨盤疼痛症候群)IC(間質性膀胱炎)と同じものだとして、IC/CPPSと名づける医者も現れました。

間質性膀胱炎はどんな病気?

間質性膀胱炎は排尿痛・残尿感・下腹部痛・頻尿など、細菌性膀胱炎に似ていますが、尿検査で細菌は証明されず、抗生物質の治療は無効です。
粘膜だけでなく、その外側の間質や筋層などにまで炎症が及んでいて、膀胱容量は縮小しています。尿がたまって膀胱が充満してきたときのほうが下腹部痛は強く、 排尿とともに軽減するという特徴があります。
診断と治療を兼ねて麻酔下に膀胱鏡を行います。麻酔下に行なわないと低容量のため観察できません。 診察台より80cm高くした容器から膀胱内に水を流し込み、膀胱を拡張させます。膀胱鏡で粘膜の変化を観察すると、 膀胱壁が拡張されると拡張前には見られなかった粘膜の断裂や点状出血が認められます。 膀胱拡張したまま、3~5分おく(これを水圧拡張術と言います)。膀胱粘膜の機械的拡張のため2~3週間は症状が悪化します。

慢性前立腺炎が間質性膀胱炎だったという日本での論文

排尿障害プラクティス2007年10月号のテーマは間質性膀胱炎の最前線でした。 この企画で、「慢性前立腺炎との関係」という論文を、排尿機能学会の有名な先生が書かれています。
その中で興味深い症例を紹介されています。
「66歳男性。主訴:排尿困難、残尿感、排尿後の痛み。 慢性前立腺炎の診断にて内服治療するも改善なし。 排尿記録にて1回排尿量100ml前後。 間質性膀胱炎+膀胱頚部硬化症の診断下に膀胱水圧拡張+膀胱頚部切開術を施行。 拡張後には点状出血を認め、間質性膀胱炎であったことが判明。」
この先生は膀胱水圧拡張だけでなく、膀胱頚部切開術も同時に施行した理由を 「間質性膀胱炎+膀胱頚部硬化症の診断下に膀胱水圧拡張+膀胱頚部切開術を施行。」としか書いていませんでした。 その後症状が改善したかどうかも書いてありませんでした。
しかし2008年11月に発行された雑誌
間質性膀胱炎を診る ─症例から学ぶ─間質性膀胱炎.臨床泌尿器科,62,959-967,2008
の中で、この症例のその後についての記述がありました。
排尿症状・蓄尿症状とも著明に改善されたと書かれていました。

2008年の泌尿器科学会で発表された間質性膀胱炎に対する手術

2008年4月の第96回日本泌尿器科学会では、間質性膀胱炎や前立腺炎に多数の日帰り手術を施行している開業医が、間質性膀胱炎での成績を発表されました。 膀胱水圧拡張が無効だった4名の間質性膀胱炎患者(女性)に膀胱頚部切開術と膀胱三角部切開術併用を行い良好な成績を得た、というものでした。
この学会では「間質性膀胱炎に対する膀胱水圧拡張時電気凝固術併用療法の治療成績」という演題を別の勤務医が別の日に発表していました(私はその日は参加できませんでした)。 対象は49例(男性23例、女性26例)で、30例に膀胱水圧拡張単独、19例に電気凝固術併用。電気凝固は途絶血管を凝固するのだそうです。 効果が持続した期間は単独群が8ヶ月、電気凝固術併用群が13ヶ月だったそうです。

アメリカでは慢性前立腺炎に腹腔鏡下前立腺全摘を行う、という治験(PhaseⅡ)が開始されています。

付録:2007年の泌尿器科学会に私が発表した前立腺炎の治療成績

退屈な内容ですが興味のある方はこちらをご覧下さい。 非細菌性前立腺炎の方にセルニルトン・漢方薬・抗コリン剤・αブロッカーなどを投与するだけでも治癒する人はいます。 「細菌はいなかった。」という培養結果を聞いただけで楽になる方も少なくありません。
前立腺炎の方の中に、膀胱水圧拡張が必要な間質性膀胱炎の方が何パーセントいらっしゃるかはわかりません。 ドクターショッピングを長く繰り返しておられる方が多く訪れるところと、STD直後の方が多く訪れるところでは大きく差が出ると思います。