木村泌尿器皮膚科

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MRI拡散強調画像にて前立腺の背側部に一部高信号領域


Q.父(74歳)についてご相談させていただきます。
3年前に人間ドックにてPSAが13.7と指摘されすぐにバイオプシーを6箇所実施。
すべて陰性で前立腺肥大によるものだろうということで経過観察(そのときの前立腺の大きさはわかりません。)
その後 今年の6月に測定したPSAが20前後に上昇。再度12箇所を他の病院でバイオプシーを実施しましたがやはり陰性。
そして今年の11月にPET-CT、MRI、エコーなどの全身のがん検診を受けましたが指摘は前立腺だけでした。
MRI読影
そのときのMRI所見は
「前立腺はその内腺域が腫大しており、辺縁域はひはくかし、ほとんどわからなくなっています。
MRI上は前立腺肥大症の所見です。ただ、拡散強調画像にて前立腺の背側部に一部高信号領域が認められます。FDG-PETではこの部分に は異常なFDG集積はありませんが、前立腺がんはFDGの集積が低い場合が多いのでMRIのこの拡散強調画像の所見を優先したほうが良いと思います。 膀胱壁自体には腫瘤性病変はありませんが腫大した前立腺によって膀胱尾側部分が上方へと圧排されています」
との内容でした。

PSAが上昇傾向にあり2回バイオプシーを実施しても陰性のため、 実は外腺部ではなく内腺部に癌があるのではと思っているのです。
ここで質問なのですが今後の進め方として
1)このまま様子を見て定期的にバイオプシーを実施
2)経尿道的前立腺切除術を実施し内腺部分に癌があるか否かを見て、あれば全摘出術を実施
3)前立腺もだいぶ大きくなっているので全摘出術を実施
  (現在ハルナールにて排尿困難等の生活に障害になるものはなし。父は面倒なので全摘してしまっても言いといっています)

どのようにフォローしたほうが良いと考えられるでしょうか。

外腺から発生

A.前立腺癌の多くは尿道から離れた所(外腺)から発生するため、前立腺の針生検は外腺をねらってやることが 多いのです。6箇所生検の時は、外腺のみを狙った可能性があります。しかし、12箇所生検の時は、内腺からも取っているはずです。
MRIの拡散強調画像というのは知りません。緩和時間(T2)強調画像のことでしょうか?MRIではどこに癌があるかはわかりません(MRIは体内の水素の状態を画像化するもので、1986年、私が東芝病院に いたころ東芝も開発に力を入れていて期待したのですが、摘出した標本をカットして肉眼でみてわかるような正常と異常の境目はMRIで表示できるのですが、顕微鏡でしかわからないような 微妙な変化はMRIでもわかりませんでした)。

1)このまま様子を見て定期的にバイオプシーを実施

が私のお勧めです。

内腺を切除する手術
前立腺肥大症症状があれば、その治療も兼ねて内腺を切除する手術を行い、その内腺を検査にまわして ガン細胞がないか調べます。お父さんの前立腺体積(MRIからでも計算できます)はいくらだったか聞いてみましたか? 前立腺体積・PSAによる癌の確率の早見表を参考にしてください。

2)経尿道的前立腺切除術を実施し内腺部分に癌があるか否かを見て、あれば全摘出術を実施

については、経尿道的前立腺切除術の後の全摘出術が難しくなるという、難点があります。 経尿道的前立腺切除術を実施し内腺部分に癌があるか否かを見て、あれば内分泌療法もしくは外照射、というのが普通の選択肢だと思います。

3)前立腺もだいぶ大きくなっているので全摘出術を実施

患者さんがいくら望んでも、癌の確定診断なしに前立腺全摘出術をやる医者はいないでしょう。 前立腺全摘出術はがんにのみ行う手術で、前立腺肥大症に行う前立腺切除術(開腹もしくは内視鏡で内腺を切除し、外腺は残す)とは全く異なる手術です。 癌と診断するに十分な証拠が必要です。膵臓がんなら、CTだけでがんを疑って手術するでしょうが、前立腺がんや乳がんのように簡単に生検できる臓器で、CTなどの画像だけからがんと診断するのは乱暴です。 癌でない人に癌の手術をして、術中もしトラブルを生じたら、刑事事件となり、医師免許停止でしょう。 まず、院長(もしくは倫理委員会)が許可しません。