PSADの分母に適した前立腺体積計測法の検討
木村明*、北村唯一**
*東京共済病院泌尿器科、**東京大学分院泌尿器科
緒言
前立腺検診に前立腺特異抗原(PSA)を用いる施設が増加しつつあるが、前立腺肥大症での疑陽性が問題となる。そのひとつの解決法として、PSAを超音波等により求めた前立腺体積で割ったPSA density(以下PSAD)が用いられることがある。PSAについては測定キットごとに遊離型・結合型の感度等につき詳しい検討がされているが、分母である前立腺体積の計測法については論じられることが少ない。
一般に測定法の理想は、計測値が実際の前立腺体積に近く、再現性も高い事であるが、PSAとの比を求めるためだけに使用するのであれば、必ずしも実際の体積と一致している必要はない。どの症例でも誤差が同じであればよく、疾患によって誤差の程度が異ならなければよい。前立腺癌に比べ、前立腺肥大症の体積を特に過小評価する傾向の強い測定法などは、前立腺肥大症のPSADを過大評価させることになり、PSADの分母として不適である。
そこで、PSADの分母にふさわしい前立腺体積計測法につき検討した。
対象および方法
経直腸的超音波断層法を施行した前立腺癌・前立腺肥大症・正常それぞれ50例で、
左右径・前後径・上下径の積にπ/6を掛ける方法(左図)、および横断像を縦断像内にはまるように縮小コピーして配列する疑似積層法の2種類で、前立腺体積を計測した。
疑似積層法は、我々が最近提案した、
直交2断面の前立腺輪郭トレースによる新たな方法である(右図)。1/2に縮小コピーした図形の面積は1/4になるので、各断面の面積はAmax x 縮小率の2乗になる。したがって、疑似積層法の計算式は右図に示した様に、Amaxに厚さ0.5cmと縮小率の2乗の累計を掛けたものになる。
対象の150例のほとんどは、PSAが測定されていなかったり、測定されていても、測定法が異なったりしていた。そこで別に、EIA法によりPSAを測定した34例(癌10例、非癌24例)を対象に、2方法による体積を分母にしたPSADを求め比較した。
結果
3軸の積による体積は、前立腺癌50例の平均が25.4ml、前立腺肥大症50例の平均が36.9ml、正常50例の平均が14.2mlであったのに対し、疑似積層法による体積は、前立腺癌50例の平均が26.3ml、前立腺肥大症50例の平均が40.4ml、正常50例の平均が15.7mlでった。すなわち、疑似積層法のほうが、3群いずれでも計測値が大きかったが、特に前立腺肥大症の体積を多めに見積もっていた。
体積の逆数の平均値は、3軸の積による方法では癌:肥大症:正常=1:0.75:1.77であるのに対し、疑似積層法では癌:肥大症:正常=1:0.72:1.64であった。
図2に、EIA法によりPSAを測定した癌10例、非癌24例でのPSADの値を示す。左が疑似積層法を分母としたPSAD、中央が3軸の積を分母としたPSAD、右がPSAの値そのものの分布である。癌症例の最低値をcut off値とすると、specificityはそれぞれ88%、83%、38%となった。
考察
疑似積層法は、横断像と縦断像の双方の前立腺の輪郭をトレースすることにより前立腺体積を求めるもので、我々が最近提案した新たな計測法である。
前立腺癌・前立腺肥大症・正常それぞれ50例、計150例でのこの方法と3軸の積による方法の比較では、3軸の積のほうが前立腺肥大症での過小評価の程度が大きく、PSADの分母として用いると、目的とは逆に前立腺肥大症でのPSADを上げることになることがわかった。
PSADはPSAに体積の逆数を掛けたものということもできる。
PSADが前立腺癌で高値に、前立腺肥大症で低値になるためには、体積の逆数が前立腺癌で高値に、前立腺肥大症で低値になればよい。したがって体積の逆数が前立腺癌に比べ前立腺肥大症で低い疑似積層法はPSADの分母として適しているといえる。
PSAの測定法が最近頻回に変更されたため、今回は2方法でのPSADを実際に比較できたのは34例にとどまったが、疑似積層法の方がPSADの分母に適している傾向がみられた。今後症例をふやし検討したい。
口演原稿