(スライド1) 前立腺疾患の治療効果判定に用いられる超音波計測による前立腺重量(体積)は最近,ハンドスキャナにより撮影された最大横断像(及び最大縦断像)から楕円体で近似して求めることが多い.スライドは最大横断面の面積と左右径から,同じ面積の楕円を左右径を軸として回転させた回転楕円体で近似する回転楕円体近似法により重量を求めているものである.今回,この誤差につき検討した.
(スライド2) 5mm間隔の連続横断像を基にパソコンを用いて,前立腺の三次元像を作成した.
(スライド3) 正常例5例,肥大症10例,癌5例で,すべての断層像の前立腺の輪郭をパソコンに入力し,前立腺の三次元像を作成した.多断層面積計測法による前立腺重量を真の値とした.
(スライド4) 尿道との成す角を任意に選んだ平面でこの三次元像を切ったときの最大横断面を求め,その面積と左右径から,最大横断面の面積と同じ面積の楕円を左右径を軸として回転させた回転楕円体で近似する回転楕円体近似法による重量を求めた.
(スライド5) さらに,最大横断面と最大縦断面から左右径・前後径・上下径を計測しこの3軸の積にπ/6を乗じて求める直方体近似法による重量として,この断面の左右径・前後径に,前立腺部尿道長(スライドのLp)とπ/6を乗じた場合と,左右径・前後径と直交する上下径(スライドのLv)とπ/6を乗じた場合の2方法による重量を求めた.
(スライド6) 正常例5例での回転楕円体近似法と2つの直方体近似法による重量の誤差を表に示した.横軸は走査面が尿道との成す角度で,縦軸は,多断層面積計測法による前立腺重量との差の割合である. スライド左の回転楕円体近似法は過小評価する傾向があった.これは,この方法では,概して上下径より短い前後径で上下径を代用することになるためと思われた.探触子を傾け,冠状断に近い横断像を取るようにすれば,前後径が上下径に近づき,誤差は小さくなるようであった. スライド中央の前立腺部尿道長を用いた直方体近似法による重量は,回転楕円体近似法によるものより,誤差は少ないものの,横断像と尿道との角度が小さくなるほど過大評価する事が多くなった. スライド右の直交する上下径を用いた直方体近似法による重量は,誤差が小さく,横断像と尿道との角度に影響されなかった.
(スライド7) スライドに,3つの近似法の,誤差の平均と,走査面の角度による誤差の変動の程度を,正常5例,肥大症10例,癌5例で平均したものを示した. 肥大症でも回転楕円体近似法による重量は過小評価する傾向があった.しかも,走査面の角度による誤差の変動が大きく,検査時の探触子の傾け方で,値が大きく変動することがうかがわれた.癌での回転楕円体近似法による重量も同様であった. 前立腺部尿道長を用いた直方体近似法による重量が,横断像と尿道との角度によって大きく変動する傾向は,肥大症例でも,癌例でも見られた. 直交する上下径を用いた直方体近似法による重量が,横断像と尿道との角度に影響されない傾向は,肥大症例でも見られた. 癌症例の中で特にいびつな形状のものは,どの方法でも誤差が大きく,楕円体や直方体で近似するのは不適切と思われる例もあった.
(スライド8) 前立腺部尿道長を用いた直方体近似法による重量が,横断像と尿道との角度が小さくなるほど過大評価するのは,横断像を冠状断に近づけて横断像の面積を大きくしておきながら,上下径は一番長いところで測り続けるためであった.
(スライド9) 直交する上下径を用いた直方体近似法による重量が,横断像と尿道との角度に影響されないのは,横断像を冠状断に近づけて横断像の面積が大きくなると,その分,上下径は一番長いところからずれて短くなるためであった. 2方向の断面から計測する直方体近似法の場合には,3軸が直交するよう注意が必要である.現在使用されているバイプレーン探触子は,最大横断像撮影の後,プローブをさらに直腸内に挿入しないと最大縦断像が撮影できないものが主流である.このプローブの移動は平行移動とは限らず,これが3軸が直交するように計測することを困難にしている.
(スライド10) スライドは,治療前後に検査を繰り返した肥大症5例での回転楕円体近似法による重量の誤差と,走査面の角度による変動を示したものである.個々人においては,尿道と走査面の角度による誤差の程度は,治療前後でさほど変わっていないことがわかる.従って,探触子の挿入角度がいつも同じであれば,回転楕円体近似法も治療効果判定には有効である.