木村泌尿器皮膚科

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間欠療法


Q. はじめまして。1月に前立腺がん確定との診断を受けた74歳の父のことで相談させて頂きます。

高齢の父
今後の治療としては、前立腺全嫡除術をする方向で検討していますが、以下の点で悩んでおり、アドバイスを頂けたら幸いです。
1)術前ホルモン療法を行うべきか?
2)術中迅速診断は重視すべきか?(現在の病院では出来ない)
3)そもそも、低分化がんの特徴について詳しい情報が少ない
   進行がどのくらい速いのか?ホルモン抵抗性はどのくらい高いのか?

以下は今日までの経過です。

2000年秋、集団検診でPSA5.2と測定
  触診問題なしとの結果から経過観察となる。
2001年秋 一年ぶり二度目のPSA6.65と測定
  触診の結果癌の疑いありということから12月末に生検を受ける。
2002年1月11日 生検の結果11箇所中左側の近接した二ヶ所にがんがみつかる。
  ステージB1、分化度:中分化から低分化(グリーソンスコア4+5=9)
グリーソンスコア
  超音波検査による前立腺の大きさは34.2ml
  現在のところ、リンパ節、骨への転移及び浸潤はみられない
医師からは、前立腺内に限局した初期の癌であり本人と家族でよく相談して治療法を決めるのがよいと言われた。この病院では放射線治療を行っておらず、希望した場合別の病院を紹介することになるとのこと(群馬大学病院、小線源治療も行っている)

前立腺手術
このような結果をふまえ、木村先生のHPやいろいろな本、国立がんセンターのHPなど、可能な限りの情報を収集した結果、摘出手術がよいのではないかと考えました。しかし、術前ホルモン療法や術中迅速診断については賛否両論があるようで、決めかねています。
まず、手術が適当と考えた理由は以下の通りです。
・父はこれまで特定の疾患にかかったことはなく74歳という年齢のわりには体力がある
・臨床病期がB1で、かつ、生検でがんが見つかったのが狭い範囲であったことから、根治が望めると考えている
・低分化であるため、ホルモン療法の効果が低い可能性がある
・放射線治療は、副作用が気になる。小線源治療は実績も少なく(群馬大学ではこれまでに6例)、また治療中に長期間外出できないことが体力を低下させる
サンデージャポン
術前ホルモン療法については、賛否両論あると知り、迷っています。
聖路加病院の永田医師監修の本に、以下のように両論がまとめて書かれていました。
 賛成意見:腫瘍が小さくなれば根治の可能性が高まる。
      但し、ダウンステージングの可能性が高まるという報告はない
 反対意見:手術後に再燃した場合、ホルモンが効きにくくなっている可能性がある
さらに父の場合、低分化のためホルモン感受性が低いとすると、術前ホルモン療法の効果が低く、逆に手術が遅くなる分がんが進んでしまうのではないかと考えています。
江の島と富士
術中迅速診断についても、以下のように賛否両論があると知りました。
 賛成意見:臨床病期と病理病期が必ずしも一致しない可能性が高いため、       手術中にリンパ節を調べて、もしも転移していたら手術を取り止め       た方が、身体へのダメージが低く、他の療法に変更しやすい。
 反対意見:術中に短時間で診断する為、間違いの可能性も懸念される
      その場合には、根治の可能性をみすみす捨てることになる

担当医師に現在の希望を告げたところ、以下のような回答をいただきました。
・この病院では原則的に術前には全員にホルモン治療を施している。
 理由:手術は早くても生検後三ヶ月以降に行いたいが、その間何も治療を始めないよりはいいと考えている為
・手術後再燃した場合にホルモンが効きにくい可能性がある、という点に関しては初耳な ので調べてみるが、いずれにせよ患者側の希望を尊重する。
・この病院では術中迅速診断は行っていない。迅速診断の正確性に疑問があると考えている。
そもそも、早期とは言われていますが、グリーソンスコア9というのがとても気になっています。細胞の悪性度が高い場合、増殖して浸潤・転移に至る速度がどの程度速いものなのでしょうか?術前ホルモン治療を行わない場合は手術を急がないと癌が進んでしまう、という恐れはないのでしょうか?担当医からは、急いで治療に入る必要があるといったことは言われていませんが、これまでに扱った患者でグリソンスコアの最大は7だったそうです。また、PSAが二年間を通じてほとんど変化がないのにもかかわらず、一年前にはみつからなかったがん細胞がみつかったということも低分化であることと関係があるのでしょうか?
以上を総合して、父のケースの場合どのような治療法が望ましいか、についてもご意見を頂けたら幸いです。
大変お忙しいと存じますが、何卒宜しくお願い致します。
長谷寺千体地蔵

A.短期間によく勉強されていて驚きました。私が付け加えられることは僅かです。
ホルモン療法のやり方に間欠療法というのがありますが、一度ホルモン療法をやめてPSAが再上昇しはじめた人にもう一度ホルモン療法を再開すると、再度PSAは下がることが確認されています。
したがって、術前ホルモン療法をやると手術後に再燃した場合、ホルモンが効きにくくなっている可能性があるというのは、頭の中で考えた理屈であって、根拠はないと思います。
一年前にはみつからなかったがん細胞、と書かれていますが、1年前にも生検を受けたのでしょうか?生検の偽陰性についてをご覧下さい。
前立腺癌の可能性

Q.お忙しい中、早速のご回答をありがとうございます。
間欠療法については、担当医師が「ホルモン療法を中断するのはもしものことを考えると出来ない、やった事がない」とのことだったので、どちらかと言うと否定的に考えていましたが、効果を上げている例があることを考えると、確かに、術前ホルモン療法をやったからと言ってホルモンが効きにくくなる、というのは短絡的だと納得しました。
すると、残る懸念材料は、父のがんが低分化であることによる進行の速さです。
1年前にPSAが5.2だったときには、触診の結果硬いものがなかったために、生検はやらなかったようです。そのときと同じ担当医師が今回触診をした際には明らかに硬いものがあったため生検をした、と説明されました。生検の際には、触診で硬いものがあった辺りを重点的に2箇所取ったら、案の定がん細胞が見つかったとのことです。
ご指摘頂いたページを見直してみると、1年前に本当にがんがなかったとは言い切れず、内腺に隠れていた可能性もありますね。現在34.2mlの前立腺は1年前は少なくともそれ以下の大きさだったはずで、それでPSAが5.2だったということは、PSADが高く、当時からがん細胞があった可能性が4%程度はあると言うことですね。
ただ、内腺にあったものが外腺に出てきたとすれば、かなり広がっているでしょうし、少なくとも深さがあるはずなので、生検で取った組織のうち黒の部分が長いと考えますがいかがでしょう?検体を担当医師に確認したいと思います。
ピーカンの空
分化度と生存率との相関に関する先生のお考えは、このページにありましたが、要約すると、「分化度の診断は病理医によって、また診断するときによっても変わるので、相関がない」ということですね。逆に言えば、何人かの医師に検体を見せて、低分化と判断されれば、特に早期なら急いで処置すべきと考えますがいかがでしょう?
また、術中迅速診断についての先生のご意見は、ホームページに見当たりませんでしたが、上記の病理医の判定に関する上記の先生のコメントからすると、たぶん否定的なご意見ではないかと推察されます。
前立腺は早期のがんが一番治療法に悩むというのを承知で、先生だったら父のケースでどのような治療法を薦めるか、についてお聞かせ願えませんか?
別途、セカンドオピニオンは聞いてみようとは考えていますが、担当医師は、治療法の選択肢を挙げるだけで、「これがいいのでは」と提案はしてくれないため、いろいろ調べて手術の方向で考えてはいるものの、自分達の判断に自信が持てていないのも事実なのです。父本人は、他に病気はなく、出来るだけ普通の生活で長生きをしたいと考えており、根治を望んでいます。
宜しくお願い致します。

A.外腺から癌が出たのでしょうか?11カ所のマッピングをもらったらよいと思います。先生だったら父のケースでどのような治療法を薦めるか、とのことですが、私もお父さんの主治医と同じで、可能性を説明して、治療法は自分で選択していただいています。気象予報士に今夜は傘が要るか、という話と同じです。
何人かの医師に検体を見せる必要があるか、とのことですが、もしどこか他の病院にセカンドオピニオンを求めて行かれるのであれば、検体を借り出して行かれたほうがよいです。グリソンスコア4+5=9は見る病理医者により確かに変わりますから
週刊現代の木村明