前立腺生検を受けるか悩んでいるPSA高値の方のためのサイトです。

癌の可能性が高い人だけに日帰り6箇所生検を行っている横浜市都筑区の木村泌尿器皮膚科です。
前立腺癌以外の泌尿器科疾患の解説も載せてありますのでお読みください。

膀胱癌

(病気の概説)

 膀胱ガンは五十歳代以上の方々に多いガンです。発育のしかたにより,表在癌,上皮内癌,浸潤癌の3タイプがあり、治療法が大きく異なります.

(症状)

 ある日突然痛みなどの症状なしに、血尿が出ます。これを無症候性血尿といいます.血尿がひどく、膀胱内に血のかたまりができると排尿しにくくなり、まったく尿が出なくなることもあります。逆に,何も治療しなくても血尿が数日で止まることもあります.またガンが膀胱の出口付近にできているときなは、尿が出にくくなったり、膀胱炎も起こして排尿時に痛みを生じることもあります。  血尿の程度と病気の進行程度とは必ずしも一致しないので、中年以上の人で肉眼でもわかる血尿が出たときは、一刻も早く、医師に相談する必要があります。また、血尿には、目で見えないもの(顕微鏡的血尿)もありますが、これは健康診断の検尿で発見されます。もしこの血尿が長く続くようでしたら、泌尿器のガンを考えてみる必要があります。

(診断)

  泌尿器の病気の検査はわずらわしいものが多く、昔は確実な診断をするためには、患者さんから敬遠されがちな、つらいものもありました。尿道から7mmの径の内視鏡を入れて膀胱の中を観察する膀胱鏡検査はその代表のようなものです.しかし、最近の診断機器の進歩により,膀胱に大きな異常がないかどうかのスクリーニングは,超音波検査,造影剤によるX線検査,CTスキャンなどで可能になりました.
 尿の中に剥がれ落ちてくる細胞を顕微鏡で見て、癌細胞かどうか調べる、尿細胞診という検査もあります。

(治療)


 表在癌は根が浅いもので、これは尿道から電気メスつきの内視鏡を入れて切除できます.入院も2週間程度ですみます.ただし,表在性膀胱ガンは場所を変えて,次々と発生するという性質があり,人によってはこの治療を半年毎に受けなければならないことがあります.
上皮内癌は、尿細胞診は陽性なのに、膀胱鏡検査では腫瘍が見当たらない特殊なタイプの癌です。上皮の中だけにあって、まだ塊になっていない早期のものを連想されるかもしれませんが、膀胱の上皮内癌は悪性度が高く,浸潤や転移の傾向が強い腫瘍です.BCGという結核の予防に使う生きた菌を膀胱内に注入する療法が有効ですが、無効な場合は,速やかに膀胱を摘出する必要があります。
浸潤癌では,膀胱を摘出する必要があります.この場合は尿の出口をおへその近くに作る尿路変更術を合わせて行うことになります.その出口からは絶えず尿が流れ出してくるため,袋を貼っておきます.膀胱をとる替わりとして,放射線照射療法や,膀胱へ行く動脈にカテーテルを入れて直接膀胱腫瘍に高濃度の抗ガン剤を流す方法が試みられています。 これらの方法で,ガンが充分に縮小して,手術で取りきれると判断されれば,膀胱をとる手術を引き続き行うこともあります.

(生活上の注意と予防など)

 早期診断、早期治療によって、ガンの死亡を少なくすることができるようになりましたが、もっとも大きな課題は、やはり、発ガン予防です。多くのガンは、外部環境や生活環境と密接に関係していることが分かっていますし、膀胱ガンもその例外ではありません。  膀胱ガンは、職業ガンとして注目されたガンの一つです。約一世紀前に、ドイツの染色工業で働く人たちに膀胱ガンが多発しました.その後、これは化学物質による発ガンであったことが明かにされました。今日では、こうした化学物質を取り扱う職場では、厳重な管理がされていて、ほとんどがガンの発生はなくなっています。  しかし、職業ガンではない膀胱ガンは、現在でもなお増えつづけており、たばことコーヒーが膀胱ガンの発生に関係していると言われています。したがって、身近な対策としては、 禁煙が考えられます。

(特別なコメント)

以前、患者さんの娘さんから上皮内癌に関して寄せられた質問を紹介します。
「64才の父は、去年10月より夜中におしっこがとまらず一晩に7?10回起きるようになり、去年の11月に近くの病院に行き検査の結果、尿に血液がまじって(目には見えないくらいです)いました。腫瘍マーカーが5という結果から、膀胱へBCGを週に1度合計6回入れることになりました。現在2回目が終わっております。現在も夜の頻尿は続いておりますが、なにか止める方法はありますでしょうか?本人も母も朝早い仕事で、もう限界にきているようです。また、原因がはっきりしないのはなにが考えられますでしょうか?病院を変えたほうがよいのでしょうか?」
尿細胞診が5(尿の中に癌細胞がある、という意味)と言われたのを、腫瘍マーカーが5と勘違いされていること、BCGで上皮内癌の治療をしているのを、夜の頻尿を直すための治療と思われているために、病院不信となってしまっているようです。
癌なのに癌を摘出する手術を行わないで、BCG膀胱内注入療法しかやらないこと、それが効かないと、すぐ膀胱を摘出しようと言われることなど、患者さんには理解しにくい病気のようです。上皮内にしか腫瘍がないのなら、なぜ内視鏡手術で手術できないのか、といった素朴な疑問が湧くのは当然です。


木村明:膀胱癌.標準治療2002/2003,p1006-1009,日本医療企画,東京,2002. より。