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初回前立腺6ヵ所生検が陰性だった人のその後


東京医科歯科大学の報告によれば、26ヵ所生検は6ヶ所生検よりも40%診断率が高くなるとのことです。

26ヵ所は標準とは言えませんが、入院の上10~12箇所生検を行っている施設が多くなっています。

東京医科歯科大学でも2008年からは14ヵ所生検にしているそうです。

当院で行っている日帰り6箇所生検は時代遅れになりつつあるのか、と心細く感じていたところ、

「6ヵ所生検は時代遅れではない」という心強い論文が出ました。

Fritz H. Schroder:Eleven-Year Outcome of Patients with Prostate Cancers Diagnosed During Screening After Initial Negative Sextant Biopsies. European urology 57(2010)256-266

ランダム化比較試験でPSA検診によって死亡率が低下することをThe New England Journal of Medicineに2009年発表したFritz H. Schroderらの論文です。

今回の論文はThe New England Journal of Medicineでの発表に使った症例を、初回前立腺6ヵ所生検が陰性だった人のその後という観点から再集計したものです。

4万人がランダム化比較試験にエントリー。2万人が検診群に振り分けられ、PSA検診の結果、4133人が6ヵ所生検を受けました。

1077人に癌が見つかりました。

初回前立腺6ヵ所生検が陰性だった人は3056人。

この3056人のうち、11年間のフォローアップ中に前立腺癌が見つかったのが、287人。うち7人が前立腺癌で死亡しました。

PSA検診の結果、生検不要とされた15837人のうち、11年間のフォローアップ中に前立腺癌が見つかったのが、867人。うち18人が前立腺癌で死亡しました。

初回前立腺6ヵ所生検で癌と診断された1077人のうち、45人が前立腺癌で死亡しました。

初回6ヵ所生検は陰性だったのにその後前立腺癌が見つかった287人での死亡率は2.4%(7/287)。

PSAが4以下なので生検不要とされ、その後癌が見つかった867人での死亡率は2.1%(18/867)。

初回前立腺6ヵ所生検で癌と診断された1077人での死亡率は4.2%(45/1077)。

さてこの結果をどう考察するか。

初回6ヵ所生検は陰性だったのにその後前立腺癌が見つかった287人全員を見落とし群と考えてみます。

多部位生検していれば癌を見つけられた人と考えます。

この7人はどのようにして死に至ったかも記録があります。4人は再生検を拒んだ人たちでした。

Fritz H. Schroderは、「検診が繰り返されるなら6ヵ所生検は時代遅れではない」と締めくくっています。

この結論は、見方により同意しない人もいるでしょう。初回に診断がついていれば、再生検など必要ないわけですから。

Fritz H. Schroderが書いた論文でも、権威あるThe New England Journal of Medicineに載るか、European urologyにしか載せてもらえないか、

差が出るわけです。ある目的のためにデザインされたスタディーを2次利用するのは、やはり制約を伴います。