前立腺生検を受けるか悩んでいるPSA高値の方のためのサイトです。

癌の可能性が高い人だけに日帰り6箇所生検を行っている横浜市都筑区の木村泌尿器皮膚科です。
前立腺癌以外の泌尿器科疾患の解説も載せてありますのでお読みください。

前立腺特異抗原(以下PSA)を測定する検診やホームドクターが増え、無症状のうちに発見される前立腺癌が増えています。 天皇陛下の入院・手術に関係して、2003年末から、前立腺癌がマスコミで大きく取り上げられたことも、PSA検診が普及した一因です。
ここでは、人間ドックや掛り付け医でPSAの高値を指摘されて泌尿器科を受診した場合、どのような手順で検査が進められるかを主に説明します。

検査法

前立腺特異抗原(PSA)

PSAは正常前立腺上皮で作られ,精液内に分泌される酵素(蛋白)のことです.
ではなぜ蛋白のことを抗原というのでしょうか.それは,ある臓器にだけある物質を発見するのに,別の動物の抗体を使うからです.アレルギーに詳しくて,抗原という言葉にこだわってしまう人のために,ちょっと説明しておきます.興味のない人は読み飛ばして下さい.
 免疫反応を起こすものを抗原,その抗原を処理するために体の中で作られた物を抗体といいます.いろいろな病気を起こすウイルスは抗原,その病原菌をやっつけるために体の中で作られるのが抗体です.抗体は本来自分の体にないものが,入ってきたとき,それを攻撃するために作られます.そして,抗体は抗原と,ちょうど鍵と鍵穴のようにぴったりと結合します. 人間の前立腺をすりつぶした物を,兎に注射しますと,人間の蛋白質は兎にとって異物ですから,それに対する抗体を作ります.前立腺はいろいろな蛋白から出来ていますので,前立腺をすりつぶした物を注射された兎も多数の抗体を作ります.この中には,前立腺だけでなく,肝臓や皮膚にもある蛋白に対する抗体もあります.そして,前立腺だけに結びつく抗体を探し当てると,この抗体が結合する相手は前立腺の中だけにしかない蛋白ということになります.この蛋白のことを,前立腺特異抗原(PSA)と呼ぶわけです. したがって,PSAの血液検査というのは,患者さんの血液のなかに,この抗体と結びつく物質がどれくらい含まれているかを調べるわけです.
前立腺癌細胞や前立腺肥大症の腺細胞でも合成され、正常の導管がないため精液内に分泌されず、血中に放出される量が増えるので、前立腺癌細胞の診断に使用されるのです。
PSAの正常値は一般的には4.0ng/ml(血液1ml中に4ナノグラム)以下とされています。PSAは癌細胞が特異的に作り出す蛋白ではないので、前立腺炎や前立腺肥大症でも軽度の上昇を示す事があります。PSA値が4.1-10.0ng/ml(この範囲をグレーゾーンと呼びます)では、癌が発見される率は2割程度です。PSA値が10.1ng/ml以上の場合は、約5割で癌が発見されます。

直腸診

指を肛門内に挿入して、前立腺の大きさ、形、中央溝、表面、硬度などを調べます。前立腺癌の場合は、軟骨硬から石様硬の結節を触れます。

超音波検査

超音波装置を下腹部にあて、尿が充満した膀胱を通して前立腺を描出します。横断像と縦断像から、左右径・前後径・上下径を計測し、この積にπ/6を掛けて前立腺体積を求めることができます。 前立腺体積は後述するPSA densityの算出に用います。

前立腺針生検(図3)

前立腺癌の確定診断は病理診断が必要です。直腸から瞬間的に針を刺し、前立腺の組織を採取します。直腸に入れた超音波装置で観察しながら、ねらった部位から前立腺組織を生検針で採取します。 生検部位については、種々の方法が提唱されているが、外腺を中心とした6箇所生検が標準的な方法と考えられています。 外来無麻酔で行う施設から、数日の入院で腰椎麻酔もしくは静脈麻酔下に行う施設までさまざまです。

CT

前立腺針生検にて、前立腺癌との確定診断後に、リンパ説転移の有無を調べるために施行します。

骨シンチグラフィー(図4)

これも、癌の確定診断後に、骨転移の有無を調べるために施行します。 放射性同位元素で標識した燐酸化合物を静脈注射し、数時間後に撮影すると、転移巣に集積が見られます。

前立腺針生検の適応について

PSA値が10.1ng/ml以上の場合は約5割で癌が発見されるため、直腸指診、経直腸的超音波断層法で癌を疑わせる所見がなくても、前立腺針生検を行います。
PSA値が4.1-10.0ng/ml(グレーゾーン)の症例では癌が発見される率は2割程度ですので、全症例に針生検を行えば、1人の癌患者を見つけるために、4人の患者に不要な生検を行う事になってしまいます。

表は、日本最大規模の人間ドック施設からPSA高値で東京共済病院に紹介され、前立腺針生検行った症例数と、癌の件数を年次別に集計したものです。PSA値が10.1ng/ml以上の場合は、本人が拒否しない限り前立腺針生検を行いました。 この方針が一貫していたため、癌発見率は期間を通じて30%以上とほぼ一定であった。これに対し、グレーゾーン症例については、どこまで検査するのかの方針が時期により変化しました。 グレーゾーン症例でのPSA、前立腺体積、PSA densityの平均値を、表の下段に示した。当初はPSAがわずかに4を越えただけの症例は針生検を行なっていませんでした。1997年からは、グレーゾーン症例にも積極的に針生検を行いました。針生検数が増えたぶん、発見率が低下しました。 1999年からはPSA densityをある程度参考にして、肥大症と思われる症例には、前立腺切除手術(TURP)もしくは内服治療を行いながらの経過観察などの選択肢を患者に提示するようにしました。不要な針生検が減少し、癌発見率が向上しました。 

PSA density

 PSAグレーゾーンでは、癌と前立腺肥大症とのオーバーラップが多い。PSA(ng/ml)を超音波断層法により求めた前立腺体積(ml)で割ったPSA densityが用いると、このオーバーラップを減らすことができます。
図5に、私が在職した1994-1995年当時の東京大学泌尿器科のグレーゾーン症例39例(癌19例、非癌20例)での、PSA、PSA densityのROC曲線を示した。ROC曲線は、横軸が偽陽性率、縦軸が感度なので、左上寄りにあるPSA densityの方が偽陽性率は低いことが示されています。感度を下げることなく偽陽性を減らせるところにPSA densityの正常範囲を設定できれば、不要な生検を減らすのに役立ちます。

図6に、東大泌尿器科のグレーゾーン症例39例、東京共済病院前期(1996-1997年)のグレーゾーン症例62例、東京共済病院後期(1998-2000年)のグレーゾーン症例60例のPSA densityを示しました。 PSA density の正常範囲としては0.15以下が一般的ですので、0.15で線を引くと、東大症例での感度は74%、偽陽性は35%、共済前期症例での感度は100%、偽陽性は87%、共済後期症例での感度は93%、偽陽性は84%となります。共済前期症例では、正常範囲を0.17まで上げても、感度は100%のままで偽陽性を65%に減少できます。不要な生検を12例減らすことができることになりますが、それをそのまま共済後期症例に適応すると、感度は80%、偽陽性は73%になってしまいます。正常範囲を0.15から0.17に上げることにより、不要な生検を5例減らせるかわりに、さらに2例の癌患者を見逃すことになります。

Free/total PSA ratio(F/T比)

PSAは血中で遊離型と別の蛋白と結合した結合型の二つの状態で存在します。前立腺癌では遊離型に比べ、結合型の割合が上昇します。 PSAのうちの遊離型のPSAの割合(F/T比)は、不要な生検を減らす手段として、PSA density同様期待されています。 しかし、ROC曲線での比較ではPSA densityの方が診断効率に優れているようです。 遊離型が25%以上を正常範囲とする検査会社が多いが、遊離型が25%以上の症例は少なく、不要な生検を減らすのには役立ちません。