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癌の可能性が高い人だけに日帰り6箇所生検を行っている横浜市都筑区の木村泌尿器皮膚科です。
前立腺癌以外の泌尿器科疾患の解説も載せてありますのでお読みください。

勃起障害(ED)

(病気の概説)

性交時に十分なだけの勃起が得られないため、あるいは十分な勃起が維持できないため、満足な性交が行えない状態です。従来使われていた言い方に「インポテンス」がありますが、性的不能と訳されるこの言葉は、人として本来備わっている能力が失われている事を意味するので、今では病態を正確に現わしている「勃起障害(ED:Erectile Dysfunction)」が使用されています。
 最近、日本で行われたEDについての疫学調査の結果によると、日本でも現在、40~70歳の男性の半数以上が何らかの原因でEDになっていると考えられています。
 EDの原因には、機能性と器質性とがあります。機能性は心因性とも呼ばれており、EDの大部分を占めています。新婚EDがその代表です。
 器質性には、陰茎そのものの障害、神経や血管の障害、内分泌異常などがあります。糖尿病で見られるEDは、神経や血管の障害によるものです。

(診断)

機能性か器質性かの鑑別は、問診でだいたい見当がつきます。機能性では、性交はできなくても、自慰は可能であったり、いわゆる「朝立ち」が認められます。
 診断も確定させるには,夜間勃起現象の有無をエレクチオメーターという特殊な装置(陰茎に小型の自動血圧計のようなものを嵌めて一晩眠る)で確認します。正常男性では、夜間睡眠中に4-6回勃起します。切手を陰茎に巻いてそのミシン目が切れるかどうかで判断するスタンプテストでも代用できます。夜間勃起現象が起きていれば、機能性と診断されます。

(治療・予後)

機能性の人には,性交は必ず可能になることを強調して自信をもってもらうよう、カウンセリング(セックス・セラピー)を行います。薬物療法には、経口薬のバイアグラがあります。EDの原因は、ほとんどの場合、勃起に必要なだけの十分な血液が陰茎にいかないことにあります。バイアグラは陰茎の海綿体(勃起時に血液で満たされるスポンジのような構造物)の平滑筋を拡張させる作用があります。通常バイアグラ50mgを性交1時間前に服用します。有効率は約70%です。ただし、内服しただけで勃起が起こるわけではなく、性的刺激という引き金が必要です。狭心症などで、亜硝酸化合物(ニトロールなどの虚血性心疾患治療薬)を服薬している人は、バイアグラを使用してはいけません。バイアグラが亜硝酸化合物の作用を異常に高めて、低血圧からショックになることがあるからです。
 器質性の人にも、まずバイアグラ(又はレビトラ)を処方します。バイアグラが無効な場合には
1)陰茎海綿体内に性行為前に血管拡張薬(プロスタンディンなど)を注射
2)陰圧式勃起補助具を使用
3)陰茎海綿体内にプロステージスを挿入
などが行われます。3)はシリコンなどでできた心棒を陰茎海綿体内に手術で植え込むものですが、日本ではあまり普及していません。

(生活上の注意)

バイアグラ50mg服用しても勃起が不充分な時、決して100mgに勝手に増量したりしないでください。血圧が下がって危険なことがあります。

(特別なコメント)

陰茎海綿体内にプロステージスを挿入する方法がアメリカでは普及しているのに、日本では普及しない理由に、性交渉に関する両国民性に違いがあります。プロステージスを挿入すれば、陰茎は硬くなり、挿入可能になりますが、男性には性交による快感は生じません。プロステージスの挿入は性交渉を望むパートナーのために受ける手術なのです。そういう事情を御説明すると、それでもプロステージスの挿入を望む、という患者さんは日本ではあまり多くありません。


木村明:勃起障害.標準治療2002/2003,p1056-1058,
日本医療企画,東京,2002.
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