院長が勤務医時代に作ったサイト
放射線療法で7週間の通院は勤務の都合上も大変
Q. 前略、58歳のサラリーマンです。セカンド・オピニオンをお願いいたします。
2000.12月に前立腺癌が疑われ(PSA6.0)生検(異常なし)、2001.5月(PSA9.0に上昇)の2回目生検で確定診断(生検8本のうち1本の右葉下部奥に高~中分化型の腺癌・部位的に皮膜浸潤の可能性あり、CT/MRI異常なし)を受け、プロスタール服用とリュープリン注射を開始しました。治療方針は、①ホルモン療法、②化学療法(シスプラチン3回投与)、③手術ということに決定され、2001.10月に入院し、シスプラチン100ml投与を受けたところ、腎機能に重大な副作用が出て、約1ヶ月間入院続行となりました。腎機能が回復しない(退院時クレアチニン1.71が改善されず)ため、2回目以降の投与は中止され、現在は、プロスタールとリュープリンを続けながら(2002.1月現在PSA0.8)、腎臓の回復を待っています。主治医の先生は、腎機能が回復しないと手術は難しいとのことで、リュープリン開始10ヶ月後の2002.2月ごろに放射線療法を視野に入れておられるようです。手術と放射線療法の差異について、予後18年を見た場合にそれほど変わらないとのことです。放射線療法の副作用としては、10年後くらいに合併症が出る可能性があるとの説明がありました。
そこで、ご質問いたします。
①手術(入院1ヶ月、後遺症)と放射線療法(通院1週間、10年後合併症)を天秤にかけた場合、どちらがベターでしょうか。また、手術優位とした場合、腎機能の回復を待って手術可能になるまで、しばらくこのまま、ホルモン療法を続けることは出来ないものでしょうか?(主治医の説明では、ホルモン療法の有効臨床例は10ヶ月とのことでした。また、ここの大学病院では、2月中に最新式の放射線治療機がアメリカから輸入・設置される予定で現在工事中であり、照射力と照射確度が一段と向上するとのことです。
②確か先生のホームページで、前立腺癌には化学療法は効かないという主旨の内容があったと思いますが、シスプラチン投与により腎機能障害が出て手術が出来ないと言われた私にとって、非常にきつい言葉です。私の場合、ほんとうに無駄であったのでしょうか?せめて、たとえ1回だけでも有効であったと思いたいものです。また、大学病院が選択しているこの方法(下肢をブロックし、臀部毛細血管もブロックした上で動脈に注射する)は、一般的なものなのでしょうか。
③主治医は、今年1月の診断で「絶対大丈夫だから、くよくよ考えないで普通に生活をするように心がけなさい」と励ましてくださいました。第二の人生出発をまじかにして、この言葉を信じて生きられるのでしょうか。
A.放射線療法が通院1週間、というのは7週間の間違えではないでしょうか?ホルモン療法の有効臨床例は10ヶ月、というのも何かの聴き間違えではないでしょうか?骨転移のあるような進行癌の場合でも、ホルモン耐性になるのは、2年で半数程度です。その病院では全摘を前提にしたホルモン療法は10ヶ月しかやらないことに決めている、という意味なら理解できます。下肢をブロックし、臀部毛細血管もブロックした上でシスプラチンを動脈に注射する、という治療法は膀胱癌では割とポピュラーな方法ですが、前立腺癌にもやっている病院があるのは知りませんでした。
Q.いくつかの疑問が解消しました。ありがとうございました。
前回お話ししましたように、昨年5月に高分化~中分化腺癌(ch1)と診断されホルモン療法を開始し、10月に化学療法(シスプラチン投与)をしたところ、副作用の腎機能障害が発生したため、以後の化学療法(2回予定)は中止となりました。
本来ならば、1月に全摘出手術が予定されていたのですが、現在、クレアチニンが1.75で、貧血気味がまだ改善されないので手術が出来ない、ということで放射線療法を薦められています。PSAは0.7です。
主治医の話しでは、今年の1月に、当病院に最新式の放射線治療機材がアメリカから輸入されるので、それを使って治療してはどうか(単位は不明ですが、従来型は60だがこの機器だと70まで可能との説明です)ということでした。
私としては、あくまでも腎機能の回復を待って手術をしたいのですが、「ホルモン療法の有効臨床例は10ヶ月」という誤った認識があったため、今年の2月で10ヶ月になるので、放射線治療を受ける必要があると思い、その方向で準備をしていました。
ところが、最近になってその放射線機材がまだ当病院に設置されておらず、設置は7月ごろになってしまうことが分かりました。そこで、私は主治医に先生の論文資料をお見せし、現在の放射線機材が「原体照射法」によるものかどうかに付いてご質問しました。すぐに、放射線科の先生に照会してくださり、確認したところ「今のは駒込病院のものよりは古い」という回答であったそうで、はっきり「原体照射法」とは言わなかったようです。
そんなわけで、私は、当病院での放射線治療による副作用について一抹の不安を覚えています。
そこで、先生にお教えいただきたいのです。
① 私は、東京まで新幹線で通院しなければならない環境にあります。7週間の通院は、勤務の都合上も大変です。そこで「入院による放射線治療は、どこの病院でもしていないのでしょうか」
② 長野県の「厚生連佐久総合病院」には「原体照射法」による機材があるのでしょうか」
③ 埼玉県に同様の機材を備えた病院はあるのでしょうか
④ 私の場合、腎機能(クレアチニンの改善等)は改善しないものなのでしょうか。もし、改善を 待つとしたならば、ホルモン療法を続けつつ、何年くらい待てるものなのでしょうか
お忙しいところ申し訳ありませんが、お答えをお待ちしています。
A.貧血気味なのが、手術を躊躇われている理由ではないでしょうか?短期入院による小線源治療は、国立東京医療センターで行っているようです。長野、埼玉のことはわかりません
Q.絶対に手術をしていただきたいと思っていたのです。それが、腎機能障害で不可となってしまい、落ち込んでいます。
しかも、主治医が薦める「放射線療法」は、今のところ、職場環境からも6~7週間の通院という条件をクリアできる環境にありません。
八方ふさがりの状態の中で、先生から「小線源療法」をご教示いただきました。ありがとうございました。実は、この療法のことについてインターネットで知り、主治医にも相談したことがあります。「この療法は承知しているけど、あまり結果がよくないので僕はやっていない」とのことでした。具体的なマイナス点についての説明はありませんでしたが・・・。また、書物で読んだのですが、「皮膜浸潤がある場合は、採用しない」というような記事を記憶しています。しかし、短期入院で治療ができるという先生のお話が、大変魅力的です。私は、国家公務員で来年の7月には勇退の予定ですが、それまでは、入院以外の方法で職場を離脱することは不可能に近いことです。そこで、一度、国立東京医療センターを訪ねてみたいと思います。
そこで、先生にご質問いたします。
①皮膜浸潤の有無は手術して(開いて)見ないと分からない。エコー診断では影となって写るのみで、はっきり断定できない。したがって病期はT3aとなる旨言われていますが、それでも、小線源療法は可能なものでしょうか?
②シスプラチン投与の処置方法は、「骨盤内動脈注射化学療法」というもので、私の場合、180ml投与したそうです。この有効性について、先生はどうお考えでしょうか?
③国立東京医療センターで見てもらうことを、主治医にどのような段取りでお話するのが良いのでしょうか?もし、小線源療法は出来ないと言われたときに、改めて今の病院にお世話になるのは、心苦しい気がいたします。
以上、お知り合いの先生のこととて、お答えにくい点もあろうかと思いますが、よろしくお願いいたします。
A.すでに、2の質問には答えました。1について。皮膜浸潤があるかどうかは今の段階ではわからないわけです。その段階で手術か、放射線かの選択をしなければならないわけです。3について。正直に話して問題ないと思います。患者さんが、他の医者に意見を聞きにいっていることは、医者も知っています。
Q.いろいろとご教示ありがとうございました。
2月27日(水)に、国立病院東京医療センター泌尿器科の予約が取れました。小線源療法の可否について診療・相談をいただいてきます。いままでの先生には、3月4日の診療日にお話するつもりです。ありがとうございました。先生のご活躍をお祈りいたします。
Q.今日、国立病院東京医療センターに行ってきました。小線源療法の場合も、10日から2週間の入院が必要のようです。先生のご説明で、今一、よく理解できなかったのですが、「グリソン」というのはどのような値なのでしょうか?「病理的にグリソン6以下で、PSA1桁台の場合は、転移は少ない」とのことでした。グリソンという言葉をはじめて聞きました。それを知るために、「病理標本」を借りてくるように指示されました。
やはり、手術が一番いいと言われました。また、クレアチニン1.75で貧血があったとしても手術できないことはないとのお話でした。迷ってしまいます。「グリソン」についてご教示ください。
A.グリーソンスコア:前立腺癌の分化度(悪性度)を表す数字です。2から10までで、高い値ほど悪性です。
日本では、高分化、中分化、低分化の3段階の方が普及していますが、アメリカの論文は
2から10までの9段階のグリーソンスコアで書かれています。高分化ー中分化
とのことでしたから、グリーソンスコアは5,6あたりではないでしょうか?
Q.グリーソンスコアのこと、理解できました。前に、主治医から「悪性度を2~10までとすると、6くらいの高~中分化型の腺癌」と言われたことですね。PSA値は、2回目のBiopsy時点で9.42(最高値)でした。このことから推測すると、私の場合は、転移の可能性ギリギリといったところですか・・・?
3月4日(月)に先生がなんとおっしゃるかですが、手術不可と言われたら、「病理標本」をお借りできるようにお願いするつもりです。先生ならば、現状でも私の手術をしてくださいますか?詳しい診療データもないのにお答えしにくいと思いますが、正直言って、病院を代えてしまってから手術不可となると、困りますので。失礼かもしれませんが、率直にお聞きしました。ご容赦ください。
A.貧血があると、手術の時、他人の血を輸血する必要があります。貧血がないひとでは、手術の3週間前から、自分のための献血(貯血と言います)を行っておきます。手術の時に1-2リットル出血しても貯血しておいた自分の血を使えば、他人の血を輸血する必要がありません。貧血があると、貯血はできません。他人の血を輸血する、というリスクを背負ってまで、手術が放射線に勝るか、には答えられるデータがありません。それから、下腹部を手術しておられると(大腸癌、腸閉塞など)、手術が難しくなります
Q.①下腹部を含めて、手術歴はありません。要は「貧血」の改善ですね。造血作用のある食事を努めて試みているのですが、昨年12月時点のデータでは、赤血球数373、血色素量11.9、ヘマトクリット35.1で、基準より低数値でした。今はもっと改善しているとは思うのですが、この辺の数値が貧血の原因なのですか?また、万一、貯血不可の場合、私の次男が同じAB型ですが、その血をもらうことでも、危険度は他人の血をもらうことと変わりないのですか?
②それから、あと1年4ヶ月、ホルモン療法を続けながら(リュープリン26回)貧血の回復を待って、「退職後に手術」という選択肢は可能ですか?(先生にお聞きした、ホルモン療法の有効臨床例を踏まえて考えて見ました)
お忙しいところ、本当に感謝しています。患者は、主治医の前で十分な時間もなくまた、専門知識もないため、なかなか理解と納得が得られないものです。先生のご教示は、本当にありがたく思います。これからもよろしくお願い申し上げます。
Q.私の今後の治療方針ですが、改めて強く手術を希望したところ、「貧血Ht36.3、腎機能Cr1.64で、ともに改善傾向にあり、Htが45以上になれば自己血で手術ができる(輸血を希望するならば今でもするが)。グリーソンが6以下なので、PSAの推移を見ながら現在のホルモン療法を今後、1年以上にわたって続けることができる。そこで、退職後(来年6月)に手術という選択肢も可能である。小線源療法は私も承知しているが、根治の点でお薦めできない。身体の回復を待って、最も安全な状態で手術をしたほうがいい」ということでした。基本的に、先生と同じお考えと思い、現在の治療を続行して見ます。国立東京医療センターにもこのことをお話し、快くお許しをいただきました。いろいろとありがとうございました。今後とも、よろしくご教示ください。一層のご活躍をお祈り申し上げます。
A.second opinionを聞きに行ったことを主治医に素直に話すと、すべてがうまくいくような気がします。他の皆さんもOさんを見習って下さい。浮気したような罪悪感を感じて、主治医に内緒のままsecond opinionを求められることがありますが、ホルモン療法後にPSAがどう変化しているかなど、主治医がすべて情報を持っているわけですから。
Q.ご無沙汰しております。木村先生に、いろいろとご相談にあずかりましたOです。紆余曲折がありましたが、5月7日に国立病院東京医療センターで前立腺全摘手術を受け、23日に退院し、おかげ様で職場復帰を果たすことができました。
先生に当該病院の小線源療法のご紹介をいただき相談しましたところ、各種検査データを総合して「PSA値が一桁で、グリーソンスコアが6以下であり、MRIで見る限りリンパの腫れもないので手術したほうが良い」ということで、主治医の先生のお許しを得て、当該病院で輸血覚悟の手術をしていただきました。
幸い、リンパの腫れや皮膜表面の癒着もなく手術は予定より早く終了したそうで、、摘出臓器の病理検査の結果、癌細胞の①前立腺皮膜表面及び精嚢への浸潤の有無、②前立腺内の血管及びリンパ管への顔出しの有無について全て陰性で、限局性の癌であったということでした。また、出血も少なく輸血の必要はなかったとのことです。
今後は、当分の間3ヶ月に一度の経過観察ということで、治療を終了しました。
思えば、1年数ヶ月に及ぶホルモン療法やシスプラチン投与を受ける中で、精神的にも相当の苦悩を味わいましたが、自分から積極的に求めて治療方法を選択し、木村先生のアドバイスを受けたことが良い結果に繋がりました。
まだ、後遺症の尿失禁は完全に回復したとはいえませんが、執務に差し支えない程度です。
どうか、今後も、同じ病気を持つ方々のためのよきアドバイザーとしてご活躍ください。
ほんとうにありがとうございました。
A.手術の結果も限局性の癌で、良かったですね。自己血の準備も無しで、無事手術を終えるとは、おめでとうございます。