第50回共済医学会口演原稿
前立腺針生検の適応決定にPSA densityは有用であったか
木村明、今荘智恵子
(東京共済病院泌尿器科)
スライド1
(1) 1996年7月より1998年6月まで(以下、前期)に、前立腺針生検を行った94例での前立腺癌発見率を集計し、第47回の本学会において報告した。
この中で、PSA値が10 ng/ml未満の症例(以下grayzone群)でのPSA densityの役割について、癌で有意に高値となること、しかし、癌を見逃さないところに正常値と異常値の境界を設定すると、偽陽性率が64%にもなり、前立腺針生検不要群を抽出するのにはあまり有効でないこと、患者が知りたがる前立腺癌の可能性は何%かを算出するには役立ちそうなこと、を述べた。
スライド2
(2) PSA densityによる癌の確率表示Pは、この式で求めた。左の式はマイナス無限大からプラス無限大までの範囲の数値を0から1までの数値に変換するのによく用いられる関数で、右の式は、前期grayzone群の癌と非癌でのPSA densityの分布を基に導かれた式である。
PSA densityが0.48の時、λは0となり、確率は50%となる。
PSA densityの閾値としてよく利用される0.15の時、確率は3.4%となる。
確率が10%になるのは、PSA densityが0.26の時である。
スライド3
(3) 今回、1998年7月から2001年6月まで(以下、後期)の針生検の成績を集計し、PSA densityによる癌の確率表示が発見率向上に寄与したかを、検討した。
スライド4
(4) 対象および方法:後期に、PSA値(ランリームPSAまたはダイナパックPA)が4 ng/ml以上のため前立腺針生検を行った199例を対象とした。
ランリームPSAとダイナパックPA、およびタンデムRとの相関は、スライドのごとく良好である.
前立腺針生検は、超音波ガイド下に経会陰的に6カ所生検を行った。
前立腺体積は3軸の積にπ/6を乗じて求めた。
スライド5
(5) PSA値10 ng/ml以上の症例97例での発見率は43%(前期は38%)、grayzone群102例での発見率は25% (前期は11%) であり、後期にはgrayzone群でも4人に1人の割合で癌が発見された.
スライド6
(6) 後期grayzone群のPSA、体積、PSAdensityの平均は7.18ng/ml、36ml、0.24で、前期grayzone群のそれぞれが7.39ng/ml、36ml、0.23に比べ、 PSA値がむしろ低め、体積はほぼ同じなのに、PSA densityは高値を示した。
スライド7
(7) スライドにPSA densityによる予想癌確率が10%以上と以下の症例の割合を示す. PSA densityによる予想癌確率が10%以下の症例は前期では77%なのに対し、後期では67%に減少していた.
スライド8
(8) スライドに予想癌確率と実際の発見率を示す. 癌確率予想式は前期の分布を基に導いているので、前期では予想と実際がよく一致している.
後期症例のうち、予想癌確率が10%未満の症例での実際の発見率は18%、10%以上の症例での実際の発見率は38%であった。
スライド9
9) 癌確率が計算上10%未満となった症例での実際の発見率が18%もあったことから、 最近は計算した確率を直接患者には提示せず,確率が90%以上の時 90%近くあります 50%から90%のとき、 50%以上あります 10%から50%のとき、 50%以下でしょう 10%未満の時 たかだか10%程度でしょうといった、コメントを使用している。10%以上のときのコメントの根拠は、今回は示していないが,PSAが10以上の症例も含めた199例全例での成績に基づいている.
スライド10
10) まとめ:前期grayzone群に比べ、後期grayzone群では、発見率が向上していた。
PSA densityが高いほど発見率が高かったが、計算上の確率と実際の発見率には開きがあった。
後期はPSAの平均値が低めにもかかわらず、PSA densityが高い症例が増えており、PSA densityを基に計算した癌の可能性を患者に提示しながら針生検を受けるかどうか本人に選択してもらったことが、癌の発見率向上に寄与していることが示された。