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東部60回



前立腺癌の長期成績

東京大学分院
木村 明,奥井伸雄,栗本重陽,西古 靖,保坂義雄,北村唯一

目的:高齢者に好発する前立腺癌の治療は,癌細胞の完全な除去が最終目標にならない場合がある.患者家族を交えて治療法を選択する際には,長期成績を示すことが必要となるが,癌の臨床統計は新治療法を評価するために行われることが多く,そのような調査での累積生存率は少数の長期観察例に左右される.そこで,1970年から1989年に当科を受診した前立腺癌患者の1994年末時点での予後を調査した.
対象:この期間に108例の前立腺癌が診断された.年齢は40歳から90歳,平均74歳であった.stage A は9例で,B・Cが49例,Dが50例であった.stage Aは全例無治療で経過観察された.診断後3ヶ月以内に施行された治療法は,B・Cでは,ホルモン療法(去勢術を含む)のみが36例,前立腺全摘が8例,放射線療法が5例であり,Dでは,全例がホルモン療法を受けており,うち7例が放射線療法も受けていた.追跡不能例は7例のみであった.
結果:108例全例での累積生存率は5年が45%,10年が29%,15年が18%であった.stage Aの5年生存率は78%,B・Cは53%,Dは33%であった.治療法と5年生存率の関係では,B・Cで前立腺全摘を受けた8例(平均67歳)では63%,他の41例(平均73歳)では51%であった.Dで放射線療法を行った7例(平均80歳)では43%,行わなかった43例(平均75歳)では31%であった.Dは全例ホルモン療法を受けていたが,ホルモン療法開始後腫瘍マーカー等でホルモン感受性を認めた30例では5年生存率が40%であったのに対し,抵抗性の19例では21%であった.
考察:1970年から今日まで,診断法,特に局所の進展度の評価法が大きく変わった.そのため,stage BとC(おそらくD1も)をまとめての処理を余儀なくされた.それでも,遠隔転移の有無,年齢,ホルモン感受性,治療法を基に比例ハザードモデルを用いて予後を推定するためのデータを得ることができた.
学会口演原稿 論文