スライド1 連続断層像を基にした前立腺輪郭の三次元表示の試みは,数年前から行われているが,まだ臨床にルーチンに用いられるにはいたっていない.このスライドはナチュラルヒストリーを観察できた前立腺癌症例の三次元像で,我々が1987年に発表したものである.ワイヤーフレーム法で骨格を示しただけのものではあるが,前立腺がホルモン療法で縮小するときは元の形状には戻らないことが示されている.この1年前の1986年,共同演者の黒岡は8ビットパソコンApple2とアセンブラーでかかれたソフトを用いてシェーディングを施した三次元像も報告している.
スライド2 最近はメモリーの大容量化や3D用の市販ソフトにより三次元表示も容易に行えるようになった.スライドは,連続横断像のすべての前立腺の輪郭をパソコンMacintoshに入力し,市販のSwivel 3Dというソフトで前立腺の三次元像を作成しているところである.
スライド3 正常例5例,肥大症10例,癌5例でのこのソフトによる三次元像である.しかし,輪郭は人間がなぞる必要があり,検査を受ける全例でこの様な三次元像を作成するのは困難である.また三次元表示することにより初めて診断が可能となるといったメリットもない.
スライド4 それでは,何例かの3Dを予めストックしておけば,その後の検査に役立てることはできないであろうか.ハンドスキャナの普及により,前立腺重量の計測も,積層法から楕円体で近似して求める方法に変わりつつある.スライドは最大横断面の面積の楕円を左右径を軸として回転させた楕円体で近似する方法により重量を求めている.
スライド5 回転楕円体で近似したときの誤差の程度は,個々の前立腺の三次元輪郭に左右されるのみでなく,走査面と前立腺長軸とのなす角度によっても変わる.これは,先月の日本泌尿器科学会で報告したもので,横軸は横断面の傾きで,縦軸は,積層法との差の割合である.回転楕円体法は,直腸内でのプローブの傾きで50%近く値が変わる例もあることがわかる.
スライド6 そこで,検査中の症例と横断像・縦断像が似ているものを,先ほどの20例の三次元像の中から選び出すと,回転楕円体近似の誤差を教えてくれるシステムを考案した. 縦断像の形,縦断像のどこで横断面を走査したか,その走査面での横断像の形を基に以下の処理を行う.
スライド7 縦断像に似た側面像を20例の中から4つ選ぶ.
スライド8 側面のどの部分をスライスした横断面が見たいかを,プローブの角度を変えて,実際の検査症例の場合と同じになるようにする.
スライド9 この4例につき,その走査面でスライスした割面が表示される.単に正面像を記憶しているのではなく,三次元座標を持っているメリットがここにある.
スライド10 この4つの中から,実際の検査症例の横断像に近いものを選んでクリックすると,横断走査面の傾きと,その場合の積層法に対する楕円体法の計測値の割合が表示される.このスライドは,前のスライドの右上の前立腺を選んだ上で,走査面の角度を表示させているところである.傾きが,ー30%であることがわかる.その前立腺での積層法に対する楕円体法の計測値の割合が,各角度毎に表示されているのでこの場合はー30%のところを参照すると,楕円体法では,64%に過小評価していることがわかる.従って,検査症例での体積が30cm3であれば,30を0.6で割った50cm3が体積の補正値となる.PSAdensityが0.4ng/ml/cm3であれば,これに0.6をかけた0.24ng/ml/cm3が補正値となるわけである.