前立腺超音波検査を研究テーマとしていた医者のサイト

木村泌尿器皮膚科院長が勤務医時代に書き貯めた、泌尿器科の解説や、前立腺がん・PSAや頻尿などについてのQ&A集です。

尿道炎・前立腺炎

 女性では簡単に膀胱に侵入する腸内細菌は、男性尿道にはなかなか侵入しにくく,男性の尿道炎は、不潔な性交渉によって菌が尿道に侵入したときに起こります.昔の性病を、現在では拡大解釈して性行為感染症(STD=Sexually transmmitted disease)といいます。この性行為感染症のなかでは、淋菌性尿道炎が代表的な疾患です。ほかにクラミジアなどによる非淋菌性尿道炎があります。  淋菌やクラミジアは、女性の腟の奥の部分にある子宮頚管に巣くいやすく,子宮頚管分泌物のなかにある淋菌やクラミジアは、比較的容易に男性尿道に侵入します。性的接触では、約50%の確率で感染します。  淋菌性尿道炎では、感染機会から三日以内に激烈な排尿痛と外尿道口から黄色い排膿をみとめます。この膿を染色して顕微鏡でみると、白血球に取り込まれたソラ豆型の双球菌がみられます。  クラミジアによる非淋菌性尿道炎では、感染後の発症は一~二週間と遅く、症状も軽い例が多く、排膿も透明で目だたないことがあります。顕微鏡では菌は見つからず,白血球だけが見られます。
腸内細菌
診断は綿棒で尿道粘液を採取し,クラミジア抗原検査を行います。  尿道に侵入した淋菌やクラミジアは、尿道の奥にある前立腺にも侵入していきます。前立腺分泌液には殺菌作用があるため、淋菌による前立腺炎は稀です.クラミジアの場合には、簡単には除去できずに、巣くってしまい,前立腺炎になることがあります.クラミジアにより、前立腺が感染を起こすこと、前立腺の細菌除去能力が低下し、その弱みにつけこむように、ふだんはとりつかない腸内細菌などの感染が続発することがあります。こうして,男性でも女性と同様の腸内細菌による感染症ができあがります.前立腺にいったん細菌がとりつき、増殖すると、なかなか治りにくいことになります。  高熱を伴う急性前立腺炎は、むしろ治癒しやすいのですが、この前立腺の細菌除去能力の低下による慢性前立腺炎は、なおりにくいことがあります。前立腺は、多数の分泌腺の集合ですから、いったん巣くった細菌の除去は困難なことが多いのです。  また、慢性化した前立腺炎からは,培養検査で病原菌を見つけられないこともあります.培養では検出できなくても、殺菌能力の低下した前立腺では、腸内細菌が少いながらも残存していると考えられています。  前立腺炎の症状は、尿道炎と同じ排尿痛,尿道からの排膿に加えて,頻尿,残尿感等です.急性前立腺炎の場合は,症状が強く,高熱も伴いますが,慢性前立腺炎は、症状があまり強度ではなく、多くは尿道、会陰部の不快感と、時に軽い排尿痛を訴える程度のことが多いのです。

治療法

  最近の淋菌の15%くらいは、ペニシリンを分解する酵素を産生するので,ペニシリンが効きません。したがって治療には、分解酵素の影響をうけないペニシリンやセフェム系抗生物質を服用します。だいたい一週間以内に治癒します。  なかなか治癒しない場合には,クラミジアの混合感染もありますので,テトラサイクリンを使用すると一,二週間で治癒します。  前立腺炎の治療は、二つの基本方針でのぞみます。
前立腺マッサージ
 一つは、前立腺のマッサージで、肛門から指で圧排し押し出すようにして、分泌腺内にたまっている膿性分泌物を排出させる処置です。この処置だけでも、かなり症状は改善されます。  もう一つは、抗菌剤投与です。培養検査で病原菌を見つけられないこともあるので、薬剤の選択はむずかしのですが、一般的には前立腺に集まりやすく,腸内細菌やクラジミアなどに効く薬剤が選ばれます。  投薬は二~四週間続けられますが,分泌腺に巣くっている菌の完治はなかなかむずかしいことが多く、症状や炎症所見が、いちじるしく改善したと判断されるところで、投与を中止して経過を見ることも少なくありません。  中年以上の男性の前立腺液を検査してみると、軽度ながら慢性前立腺炎を持っている人がかなりいます。症状がなければ治療は行いませんが,細菌が膀胱内侵入して膀胱炎を起こしたり、精管を通して副睾丸炎を起こすことがあるので、注意を払い続けたほうが良いでしょう。  逆に、男性が膀胱炎や副睾丸炎を起こした場合、必ずと言っても良いほど慢性前立腺炎を合併していますので、膀胱炎や副睾丸炎の治療を行う場合には、前立腺炎に対する処置も行います。

予防法

膀胱炎で水分
  膀胱炎と同じで,水分(水、お茶、牛乳など)をいつも多めに飲むこと,排尿はがまんしないようにすること,下腹部が冷えないようにすることです。  完全に治ったのに,すぐ再発する場合には,奥さんがクラミジア腟炎にかかっていないか,婦人科で見てもらった方がよいでしょう.