泌尿器科医・木村明の日記

VARTは取り消し不要。


東大医学部の学生たちが公開質問状を出している件での私見。

VART論文。千葉大学の不正行為対策委員会はこの論文の撤回を勧告しました。 この論文の責任者は今は東大教授

VART論文は博士論文です。 残念ながら、目標の3000例は集められず、1000例だけ。 死亡率などの主目的ではすべてネガティブデータになりました。

直接指導していた講師が途中で千葉大から転勤するというハプニングも。 新しい講師と教授が、左心室肥大などの副目的で何らかの有意差を出せないかと、相談。

その結果、依頼したのが、例の「姉葉」。 なんとか、有意差が出せて、2流の雑誌に採用。

筆頭著者は博士になれて、めでたし、めでたし。 載せた雑誌はLANCETなどの有名雑誌ではありません。 主目的はすべて外れたことも認めています。

採用した統計手法が間違っている、と調査委員会は指摘します。

t検定を20項目やれば、1項目ぐらいは5%の有意差が出てしまいます。 なので、いくつも有意差検定をやるときは別の方法でやるべきとは言われてます。

例えば、Aという薬とBという薬を投与した時の、1ヶ月目、2ヶ月目、3ヶ月目の検査値の有意差検定はt検定でやってはいけません。 でもそれは統計のプロの間では常識でも、2流の雑誌の査読者の常識ではありません。

治療中に何度も測定した検査値をすべてt検定でやった論文も2流の雑誌では採用されます。

統計手法の間違いを査読者が見ぬけなかったわけですから、 同じレベルの論文はこの雑誌にはいっぱい載っているはずです。 アマチュアゴルフのローカルルールみたいなもんです。

「姉葉」の名前が共著者に載っていただけで、この論文だけ取り下げて、 筆頭著者の博士号を剥奪するのはやり過ぎだと私は思います。

東大医学部の学生たちへ。この教授は悪ではありません。 教授は、ネガティブデータでも何とか論文の体裁を整えようとアドバイスしただけだと思います。

データをダブルチェックしてない、統計手法もいい加減な論文はいっぱいあります。 私のゴルフのスコアが105というのと同じく、あくまでローカルルール(ローカル雑誌)なのです。

2014年8月3日