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和文論文73



小さな工夫

マイク付き採尿コップによる平均尿流率の測定

木村明

東京共済病院泌尿器科

 前立腺肥大症の診断や治療効果判定・経過観察において尿流測定は重要な意味を占めている。特に前立腺の縮小を目的としない内服薬投与や高温度療法後の経過観察においては、超音波等の画像診断はあまり意味がなく、もっぱら症状スコア(IPSS)と尿流計測が重要視される。しかし,IPSSの信頼性には問題がある1)ため,尿流率の改善が唯一の客観指標となるが,尿流率は排尿量に依存するので,外来での1回限りの検査より,複数回行える方が好ましい.そこで,患者が自宅でもできる尿流率の測定法を提案する.
 目盛りの付いた採尿コップの底の裏に録音マイクを張り付け、排尿中の音をテープレコーダーで録音する.排尿後テープを再生して,排尿の始まりから終了までの時間を計り,尿量を排尿時間で割れば平均尿流率が求まる.
 この装置の有用性を検討するため,著者自身がこのコップに時計を見ながら排尿し,排尿量,目測排尿時間を計測した.200回の排尿を録音した.テープレコーダの再生は後で数日分をまとめて行い,排尿開始音から終了音までの録音時間を計測した.目測時間と録音時間及び,各々を基にした平均尿流率の誤差を検討した.
 200回の排尿のうち,9回は排尿量もしくは時間を見忘れ,7回はテープレコーダのスイッチの入れ忘れたため評価できず,残り184回の排尿での排尿時間の誤差は平均8.6%,平均尿流率の誤差は平均9.6%に過ぎなかった.

図.排尿量(横軸)と平均尿流率(縦軸)の関係.左:目測時間を基にした尿流率.右:録音時間を基にした尿流率.排尿量が多いほど,尿流率が高くなることが知られているが,テープレコーダーによる尿流率(右)のほうが,排尿量とよく相関していた.

 2方法による尿流率と排尿量の関係を図に示す.排尿量が多いほど,尿流率が高くなることが知られているが,テープレコーダーによる尿流率(右)のほうが,排尿量とよく相関しており,排尿時に時計を見ながら測った時間より,テープレコーダーから測った時間の方が,正確なのではないかと思わせる結果であった.
最近,前立腺肥大症に対して,泌尿器科以外の一般医家においてもα1ブロッカー等の治療薬が広く投与されるようになったものの、尿流計を備えた医院はあまりない.本方法は,尿流計のない医院においても,平均尿流率を検査するのを可能にするものである.
 なお,音の大きさと尿の勢いの関係については検討しなかった.両者には何らかの関係があると思われるが,尿がコップの底にあたるか,側面にあたるか,たまった尿の水面に落ちるか等,複雑な要素が絡むため,現在ある尿流計より安価な装置でこれらが解析できる見込みは少ないと考えた.

文献

1)木村 明,栗本重陽,西古 靖,保坂義雄,北村唯一,河邊香月,中村昌平,浜田知久馬:終日ウロフローメトリによるIPSSの信頼性の検討.日泌尿会誌,86,1728-1734,1995.