2009年国際超音波医学会

国際超音波医学会で演題発表のため、2009年8月29日~9月4日休診させていただきます。

前立腺炎診療での超音波検査の役割

前立腺炎は排尿や射精に関連して陰部や下腹部などに鈍痛を生じる病気です。 当院では、開院後3年間の新患8091人のうち732人(9%)が前立腺炎の患者さんで、再診患者を含めた延べ受診患者数19515人のうち2430人(12%)が前立腺炎の患者でした。 アメリカの統計では、前立腺炎の患者さんの治療費の合計はⅠ型糖尿病より多いそうです。 尿道炎や膀胱炎は感染症ですが、前立腺炎は感染症とは限りません。 前立腺炎という病名は、陰部に不快感を感じる男性に細菌検査もせずに簡単に付けられる病名(病名のゴミ箱)であり、患者さんに前立腺の病気という先入観念を植え付けてしまいがちです。

骨盤内うっ血症候群

下腹部に鈍痛を感じても、その原因が前立腺にあるとは限りません。肛門周囲の不快感のために長時間座っていられない状態には、慢性骨盤疼痛症候群という病名が適しています。 女性の慢性骨盤痛の原因に、骨盤うっ血が知られています。婦人科では桂枝茯苓丸が処方され、有効です。

前立腺炎にも桂枝茯苓丸を処方

当院では骨盤腔内のうっ血を基盤とした病態と考えられる前立腺炎の患者さんに桂枝茯苓丸を処方してきました。 2005年4月から2008年3月までに、6ヶ月以上続く骨盤痛を主訴に147例の男性が来院されました。 大多数の138例は前立腺に細菌感染を認めませんでした。 このうち95例はうっ血を基盤とした病態と考えられ、桂枝茯苓丸を処方しました。

超音波検査でうっ血を確認

超音波検査で拡張した静脈が観察された症例が60例、長時間座っていると悪化するという症状からうっ血が基盤と診断した症例が35例でした。

治療成績

拡張静脈 総患者数 治癒群 中止群 無効群
60 12(20%) 29(48%) 19(32%)
35 3( 9%) 11(31%) 21(60%)

治癒群:投薬により症状が消失し投薬が不要になった時期が6ヶ月以上続いたもの
中止群:症状が改善したものの、完治が確認できないまま通院しなくなったもの
無効群:効果が全く得られなかったもの

プラセボ効果も否定できず

今回の国際学会は慢性骨盤痛というカテゴリーで演題募集していたため、6ヶ月以上続く骨盤痛の方だけを抽出しました。ほとんどの方が他院での治療歴のある患者さんですので、治癒症例は少なく、無効症例が多い結果となりました。
しかし拡張した静脈が観察された群の方が治療成績が良く、超音波検査は桂枝茯苓丸が効く症例を選び出すのに役立つ事が確認できました。
ただし、拡張静脈が映っている超音波写真を患者さんに見せたことが、ポジティブな期待(positive expectation)というプラセボ効果を生んだ可能性もあります。
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