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原稿



PSA densityによる癌確率表示導入後の針生検の成績

          木村明、今荘智恵子 (東京共済病院泌尿器科)

目的:1996年7月より1998年6月まで(以下、前期)に、前立腺針生検を行った94例での前立腺癌陽性率を集計し、前々回の本研究会において報告した。この中で、PSA値が10 ng/ml未満の症例(以下grayzone群)でのPSA densityの役割について、前立腺針生検が必要なグループと不要なグループに分けることはできないものの、患者が知りたがる前立腺癌の可能性は何%かを算出するには有効であると述べた。今回、1998年7月から2001年3月まで(以下、後期)の針生検の陽性率を集計し、PSA densityによる癌の確率表示が陽性率向上に寄与したかを、検討した。
対象および方法:後期に、PSA値(ランリームPSAまたはアキシム)が4 ng/ml以上のため前立腺針生検を行った179例を対象とした。前立腺針生検は、超音波ガイド下に経会陰的に6カ所生検を行った。前立腺体積は3軸の積にπ/6を乗じて求めた。PSA densityによる癌の確率表示Pは、
P = 1 / ( 1 + e-λ ) : λ = 9.9 x PSA density - 4.8
で求めた。左の式はマイナス無限大からプラス無限大までの範囲の数値を0から1までの数値に変換するのによく用いられる関数で、右の式は、前期grayzone群の癌と非癌でのPSA densityの分布を基に導かれた値である。PSA densityが0.15の時、確率は3.4%、0.26の時、10% 、0.48の時、50%となる。
結果:PSA値10 ng/ml以上の症例90例での陽性率は44%(前期は38%)、grayzone群89例での陽性率は25% (前期は11%)であった。grayzone群のうち、PSA densityを基に計算した癌確率が10%未満の症例58例での陽性率は17%、癌確率が10%以上の症例31例での陽性率は39%であった。後期grayzone群のPSA、体積、PSA densityの平均は7.26ng/ml、36ml、0.25で、前期grayzone群のそれぞれが7.39ng/ml、36ml、0.23に比べ、PSA値がむしろ低めなのにPSA densityは高値を示した。PSA densityによる癌確率が10%以上の症例は前期grayzone群では14例(23%)なのに対し、後期grayzone群では31例(35%)であった。
考察:前期grayzone群に比べ、後期grayzone群では、陽性率が向上していた。PSA densityが高いほど陽性率が高かったが、計算上の確率と実際の陽性率には開きがあった。後期はPSA densityが高い症例が増えて(PSAの平均値が低めにもかかわらず)おり、PSA densityを基に計算した癌の可能性を患者に提示しながら針生検を受けるかどうか本人に選択してもらったことが、針生検の陽性率向上に寄与していることが示された。



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