PSA異常の方が前立腺生検を受けるか悩んだ時に読むページ

癌の可能性が高い人だけに日帰り6箇所生検を行っている横浜市都筑区の木村泌尿器皮膚科です。

前立腺のsize ー 新しい測定法



木村明
東京共済病院泌尿器科部長



はじめに
 X線撮影を基にした前立腺体積の計測についての報告は皆無ではないが,前立腺計測が臨床に用いられるようになったのは,Bモードの超音波断層法,とりわけ経直腸的超音波断層法(transrectal ultrasonography 以下TRUS)が開発されてからである1).前立腺体積の計測は,前立腺肥大症の治療法決定や前立腺疾患の保存的療法の治療効果判定に用いられる他,最近では前立腺肥大症によるPSAのfalse positiveを減らすために,前立腺1cm3あたりのPSAの値(PSA density2))を求めるためにも用いられるようになっている.

A)現在用いられている測定法とその問題点
1)連続横断面を基にした方法 ー 積層法(図1a)
 TRUSを実用化した渡辺らが行った方法である.初期の装置は,スキャナを出し入れするための穴の開いた椅子に患者を座らせ,スキャナを直腸内に挿入し,中で1回転させる(ラジアルスキャン)ことにより前立腺の横断像を得るものであった.スキャナを5mmずつ引き抜きながら前立腺の連続横断像を撮影し(図2),各断面積に厚さ5mmを掛けたものを足し合わせて前立腺体積を求める.誤差は5%以下で3),最も精度の高い方法であるが,全断面の輪郭をトレースしなければならないので,非常に煩雑である.
2)最大横断面を基にした方法 ー 回転楕円体法(図1b)
 リアルタイムの装置(静止画ではなく動画を表示する装置)が普及し始めると,TRUSも検査者が手に持って操作するハンドスキャナが普及し始めた.連続横断像の撮影には特別の固定器が必要なため,最大横断像のみから計算できる,回転楕円体法による簡便式が用いられるようになった.左心室の体積計算によく用いられていたもので,最大横断面と同じ面積Sの楕円を左右径width;W(または前後径height;H)を中心に回転させてできる回転楕円体の体積(8S2/3πWもしくは8S2/3πH)を求めるものである.超音波診断装置の体積計算機能を呼び出し,前立腺の左右端(または前後端)をマークすると,その2点を通る楕円が現れる.その楕円が前立腺輪郭に重なるよう調整すると体積が表示される.HとWを計測してπH2W/6(またはπHW2/6)で求めてもよい.左右径(もしくは前後径)の周りを回転させた場合には上下径length;Lを前後径H(もしくは左右径W)で代用していることになるので,上下径Lが実際より短く(長く)見積られ,その結果前立腺体積は平均で約20%過小評価(過大評価)される4).また,サラミを斜めに切ると断面積が大きくなるように,プローブの傾きにより最大横断面積は変化する(salami effect5))ので,再現性が悪い.
3)直交二断面を基にした方法 ー 直方体法(図1c)
 装置がさらに進歩し,横断像,縦断像共に撮影できるバイプレーン探触子が開発されると,前後径H・左右径W・上下径Lの積(直方体の体積)に一定の係数を掛ける簡便式が用いられるようになった.係数は0.5から0.7の間の数が用いられるが,π/6(=0.52)が用いられることが多い.πHWL/6は3つの径を直径とする楕円体の体積である.直方体法(πHWL/6)は1断面のみからの回転楕円体法より正確で6),誤差は5g程度とされるが,3軸が直交するように計測することに留意する必要がある(図3).しかし,Terrisら7)は15個の公式を比較した結果,πHWL/6よりもπHW2/6(回転楕円体法)のほうが実際の前立腺体積に近かったと述べ,その原因は前立腺の尖部と尿道との境がはっきりしないため,Lの値の誤差が大きいからだとしている.Batesらは8),直方体法の再現性が悪く,その最大の原因は,膀胱頚部と前立腺尖部の位置の解釈が検査者によって異なることだと述べている.

B)精度を上げるための新方法
 積層法は最も精度の高い方法であるが,全断面の輪郭をトレースしなければならない.そこで,Aarninkら9)は,コンピュータによって前立腺の自動輪郭抽出を行い,積層法による前立腺体積が自動的に求まる方法を報告した.これがルーチンに出来るようになれば最良の方法と言えるが,画質が良好でかつ一定でなければコンピュータが輪郭を抽出できない.彼らがその後の研究10)では直方体法を用いているのが,この方法の難しさを示しているといえよう.
 直方体法は横断像と縦断像の両方を用いているとは言え,H・W・Lの長さを測っているだけで,左右端・前後端・上下端の計6点の座標しか情報として使っていないことになる.さらに前立腺の尖部と尿道との境が不明瞭なことが,再現性の悪さと誤差の原因となっている.我々は,バイプレーン探触子による体積計測法として,横断像の面積と縦断像での5mm間隔の前後径Hnから,横断像を縦断像内に当てはまる様に縮小コピーしたものを5mm間隔で配列した模型の体積を求める方法(図4)を提案した11).輪郭が不明瞭な尖部近くの前後径Hnが誤差を含んでいても,(Hn/Hmax)2は非常に小さいので,生じる誤差は僅かである.さらに,横断像と縦断像の輪郭に合った模型を作成するため,前立腺の形状によって誤差の程度に差がでることはない.一方,回転楕円体法や直方体法は前立腺肥大症の体積を前立腺癌の体積より過小評価する傾向がある.3本の径を骨格にした楕円体の模型は,内側からの圧力で風船のように膨らんだ前立腺肥大症より小さく,表面がごつごつした前立腺癌の体積より大きいからである.PSA densityはPSAを体積で割ったものであるので,前立腺肥大症の体積を過小評価し,前立腺癌の体積を過大評価するものは都合が悪い.したがって,我々の方法は回転楕円体法や直方体法より,PSA densityの分母に適している.ただ,この公式を組み込んだ超音波診断装置はまだないので,今のところは縦断像から5mm間隔の前後径Hnを読み取って,パソコンの表計算ソフト等で計算しなければならない.

文献

1) 渡辺泱,加藤弘彰,加藤哲朗,森田昌良,田中元直,寺沢良夫. 超音波断層法による前立腺診断.日泌尿会誌 1968,59:273-279.
2) Benson MC, Whang IS, Olsson CA, McMahon DJ, Cooner WH. The use of prostate specific antigen density to enhance the predictive value of intermediate levels of serum prostate specific antigen.J Urol 1992,821:817-821.
3)猪狩大陸. 経直腸的超音波断層法を用いた前立腺の大きさと形状に関する臨床的観察.日泌尿会誌 1976,67:28-39.
4)木村明,平沢潔,阿曽佳郎. 経直腸的超音波断層法に基づく前立腺体積の簡易計算法(回転楕円体近似)の精度についての検討.超音波医学 1991,18:620-625.
5) Dahnert WF. Determination of prostate volume with transrectal US for cancer screening. Radiology 1992,183:625-627.
6) Littrup PJ, Williams CR, Egglin TK, Kane RA. Determination of prostate volume with transrectal US for cancer screening. Part 2. Accuracy of in vitro and in vivo techniques. Radiology 1991,179:49-53.
7) Terris MK, Stamy TA. Determination of prostate volume by transrectal ultrasound.J Urol 1991,145:984-987.
8) Bates TS, Reynard JM, Peters TJ, Gingell JC. Determination of prostatic volume with transrectal ultrasound: a study of intra-observer and interobserver variation. J Urol 1996,155:1299-1300.
9) Aarnink RG, Huynen AL, Giesen RJB, Rosette JJMCH, Debruyne FMJ, Wijkstra H. Automated prostate volume determination with ultrasonographic imaging. J Urol 1995,153:1549-1554.
10) Witjes WPJ, Aarnink RG, Ezz-El-Din K, Wijkstra H, Debruyne FMJ, Rosette JJMCH. The correlation between prostate volume,transition zone volume,trasition zone index and clinical and urodynamic investigations in patients with lower urinary tract symptoms. Brit J Urol 1997,80:84-90.
11) Kimura A,Kurooka Y,Kitamura T,Kawabe K. Biplane planimetry as a new method for prostatic volume calculation in transrectal ultrasonography.Int J Urol 1997,4:152-156.