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刀は武士の魂:膀胱鏡は泌尿器科医の魂


今日のお話は、いろいろ親切に教えてくれるドイツ美人さんへの、日本文化の説明です。(三島由紀夫の小説を読んでいる人に、余計な事かも知れませんが。)
アメリカはもちろんドイツにもない皮膚泌尿器科、日本にだけある理由は、「土肥慶蔵先生が、明治26年(1893)文部省留学生として渡欧。独ハイデルベルグ大学・ウィーン大学で皮膚科学を修め、ドイツのブレスラウ大学・パリ大学で泌尿器科学を学んで、帰国したため 」と私のホームページに説明してありますが、もっと平たく言うと、梅毒(今のAIDSぐらい怖い病気だった)の勉強に行っていた医者が帰国しようとしていたところ、文部省から連絡が入り、「膀胱鏡というものが発明されたそうだから、それも習って来い」と言われたためです。膀胱鏡ができる皮膚科医が皮膚泌尿器科医だったわけです。
皮膚泌尿器科を標榜して開業しようと準備を始めた私は、いろんな先輩にどのような設備を揃えるべきか相談しました。
膀胱鏡を購入すべきかどうかについて、「木村は超音波が得意なのだから、膀胱鏡はいらないよ。痛みを伴う検査は開業医は評判を落とすだけ。膀胱がんを疑ったら、大きな病院に紹介すればいい。」と言ってくれる先輩もいましたが、「膀胱鏡は武士の魂でしょう。」という別の先輩の一言で、膀胱鏡も揃える事にしました。
「刀は武士の魂」とは、使わないけど腰にさしていないと武士らしくない、という意味です。
例えば、血尿の患者さんが、がんセンターを受診する際には、「自分は癌かも」と思っているわけですから、膀胱鏡をやって「癌ではありませんでしたよ。」と言ってあげれば感謝されますが、開業医にくる患者さんはそれほど心構えができていませんから、血尿の人にいきなり膀胱鏡をしたら、開業医は評判を落としています。
膀胱鏡で早期がんが見つかれば感謝されるでしょうが、「癌はありませんでしたよ」というと、「余計な検査をして」とか、「血尿が余計ひどくなった」などとクレームを付けられるかもしれません。
刀を腰にさしていても抜く事はめったにない、でも腰にさしていないと武士らしく見えない、のと同じく、開業医が膀胱鏡を持っていても使う事はめったにありませんが、ないと「腰がさびしい」のです。
当院で2年間に膀胱鏡をしたのは50回。膀胱鏡の保険点数は900点(9000円)。元を取ることはできません。機械の消毒液代は別にかかりますし(サイデックスの値段は焼酎ぐらい)。開業医にとって「膀胱鏡は武士の魂」なのです。
同じく、武士の魂としてレーザーを持っている皮膚科医もいます。「エステサロンとの価格競争の中、投資額を施術代で取り戻す事は不可能。安い機械を買うと照射面積が狭くて治療時間が長くなり、人件費がかかる。でも、治療オプションのひとつとして、レーザーを提案できないと、一般皮膚科の患者さんも集まらないから。」とおっしゃる先生もおられました。
「武士は食わねど高楊枝」、開業医は無駄な投資に苦しみながらも、外見は余裕のありそうな顔をして生きているのでした。(今回は、ドイツ美人にことわざを教えるべく、誇張した部分もあり、すべてが事実に基づいてはいないことをご了承下さい。)

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