
和文論文36
女性の尿失禁
青山病院 泌尿器科医長
木村 明
くしゃみをしただけで漏れる,スポーツや旅行もできないなど,尿失禁に悩む女性が増えている.あるアンケート調査によれば,四十代,五十代の女性では三人に一人が尿失禁を経験しているという.
これまで医者もあまり関心を示さず,患者自身も羞恥心のため訴えることが少なかった尿失禁の問題も最近ようやく注目されてきた.
尿失禁と一口に言っても,いろいろな原因のものがあるが,このうち特に女性で問題となるのは,くしゃみ,咳などでりきんだ時や,飛び上がったり,走ったりする時,立ち上がろうとした時,笑った時などに限って尿が漏れる,腹圧性尿失禁である.進展例では,歩いたり,立っているだけでも失禁する.従って,くしゃみや咳が出ないように常に気を張っていたり,おもしろいことがあっても笑えず,精神的にもひどく落ち込んだり仕事やスポーツを止めたり,家事も十分にやれないとか,性生活を拒否したり,家にこもり切りになったりするようになる.
人間の膀胱は,尿道につながる出口の部分に尿道括約筋と呼ばれる筋肉が取り巻いている.正常な場合,尿道括約筋は膀胱に尿がたまっている時は,出口を締めつけ,排尿時にロート状になって,尿道へ通じる仕組みになっている.ところが女性ではこの括約筋の発達が弱く,また尿道の長さも男性よりも短いため,腹圧がかかった場合,その力が直接膀胱の出口に伝わって,尿道をおしひろげる作用をする(図1).出産や加齢に伴い骨盤の筋肉が弱くなることも尿失禁の要因である.
治療法には,行動療法,薬物療法,手術療法がある.行動療法としては,肛門をしめる,排尿を途中で止める練習をするなどの運動を繰り返す骨盤の筋肉の強化訓練がある.薬物では,膀胱の収縮力を弱めるもの,尿道括約筋の収縮力を強めるものなどが,用いられる.しかし,重症患者,すなわち,日常生活でも失禁がみられ,生活上支障をきたすような場合には,”膀胱つり上げ手術”が必要である.同手術は”ステーミー法”(図2)と呼ばれ,最近アメリカで開発された.特殊な長い針を用いて腹筋を貫いて尿道の近くに点線のように糸を通し,筋肉がゆるんでたれ下がった膀胱と尿道をつり上げる.皮膚切開が小さく,手術時間も1時間以内で済み,入院も二週間程度でいい.