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和文論文27



レーザー砕石の進歩.

東京大学医学部泌尿器科学教室

木村明,東原英二,阿曾佳郎

はじめに

 1980年前後に体外衝撃波腎尿管砕石器(extracorporeal shock wave lithotriper,ESWL)1),経皮的腎砕石術(percutaneous nephrolithotripsy,PNL)2),硬性尿管鏡を用いた経尿道的尿管砕石術(transurethral ureterolithotripsy,TUL)3)が発表されてから,尿路結石の治療として従来行われてきた切石術はほとんど施行されなくなった.
 特にESWLは,エネルギー源を直接結石に接触させることなく,体外で発生させたエネルギーが体内をす通りして結石を破砕するという,画期的なアイデアであった.
 しかしESWLも,ある程度の大きさまでの腎結石では治療成績が非常によいが,尿管結石では成績が落ち(位置合わせに超音波断層法を使用するタイプの装置では尿管結石を描出できないため破砕が不可能),大き過ぎる腎結石を破砕すると尿管内にstone streetを形成し症状や腎機能をかえって悪化させることもあり,ESWLは万能ではないことが明かとなり,むしろESWLの普及にともない尿管鏡等のendourologicalな手法が要求される頻度が多くなっている.

I 超音波砕石器と電気水圧砕石器(EHL)

 TULにおける結石破砕のためのエネルギー源としてわが国で商品化されているのは超音波砕石器と電気水圧砕石器(EHL)である4).
 商品化されている超音波砕石器は硬性の振動子によりエネルギーを結石に伝達するため硬性の尿管鏡を用いなければならない.これに対しEHLはエネルギーの伝達は電気コードによるので軟性の尿管ファイバースコープで使用可能である.硬性の尿管鏡を上部尿管まで挿入すると尿管口が内側に牽引されて尿管口狭窄を生じることがあり,また操作中腎盂に押し戻された結石の治療は不可能であるため,著者らは結石が上部尿管にある場合には軟性の尿管ファイバースコープを用いるべきだと考えている5).
 一方,超音波は軟部組織への障害性が低いので振動子を誤って尿管へ当てても短時間であれば障害を起こさないが,電気スパークにより生じる水圧は結石にも軟部組織にも同様に作用するのでプローブを尿管へ当てて放電すると尿管は簡単に穿孔してしまう.
著者らは超音波を伝達するための軟性の振動子を試作し,軟性の尿管ファイバースコープ下での破砕に成功した6).軟部組織への障害が低く軟性の尿管ファイバースコープ下での破砕が可能となれば理想的な破砕装置となるわけであるが,プローブ先端でのパワーがまだ不充分であること,軟性の振動子とは言え90゜も屈曲させることはできないので振動子を挿入した状態では尿管ファイバースコープを自在に操作出来ないなど,まだ改良すべき点がある.

II レーザーの原理と種類

超音波砕石機にかわるflexibleな装置でしかも尿管に組織障害がなく石を砕くエネルギーとしてレーザーが注目されることとなった.
 レーザーは,反転分布状態の媒質による光の誘導放出を利用して,光波を発振または増幅する装置のことで,語源は英語のLight Amplification by Stimulated Emission of Radiationである7).原子の電子軌道,振動,回転の状態には,それぞれ固有の状態が離散的に存在し,この状態に応じた内部エネルギーを持っている.普通の状態の媒質は,上のエネルギー準位にある原子数N2は下のエネルギー準位にある原子数N1より少ない.媒質に外部よりエネルギーを与えると,原子が励起されてN2>N1の状態になる.この状態を反転分布状態という.
 レーザーの基本的構成は,図1のごとく2枚の反射鏡の間にレーザー媒質を入れたものである.媒質に適当な方法でエネルギーを加え(ポンピング),媒質を励起して反転分布状態を作り,誘導放出によって光を増幅する.2枚の反射鏡は光共振器を構成して,共振周波数の光を閉じ込め,その一部が反射率100%以下の反射鏡を透過して外部に取り出される.ポンピングには,光を照射する光励起,気体では放電励起がよく用いられる.
 レーザー光の特徴は,指向性が良く,ほとんど完全に単色であり,位相が良くそろっていて干渉性が良いことである.
 レーザーは媒質の種類により,気体レーザー,固体レーザー,液体レーザー(色素レーザー)に分類できる.また,レーザー光の放出の様式により,連続波とパルス波に区別できる.パルス波を出す方法には,フラッシュランプによる光励起のようにポンピングを断続的に行う方法と,ポンピングは継続的に行いながらエネルギーを外部に取り出すのは瞬時に行うQスイッチと呼ばれる方法がある.

例えば図1の反射鏡M1をモーターで回転させると,M1とM2が向かい合っていない時はポンピングのエネルギーが反転分布状態として蓄えられ,M1とM2が向かい合った時に極めて大きな出力のレーザー光が放出される.

III レーザー破砕研究のレビュー

これまでに結石破砕実験が行われたレーザーを,気体レーザーか固体レーザーか色素レーザーか,さらに連続波かパルス波かで分類したのが表1である.このうち結石破砕装置として最初に実用化されたのはパルスダイレーザーである.この項ではそれ以外の,実用化にまで到らなかったレーザーについてレビューする.

連続波

棚橋ら8)は,CO2レーザーの連続波で結石に穴を開けた.16 Wattで毎秒2mmの速度で穿孔が進んだ.CO2レーザーはfiberを通らないので,棚橋らはYAGレーザーの連続波をfiberを通して膀胱結石に当てた.出力は70 Wattで,熱による組織障害を防ぐため還流を要した.fiber先端もレーザーにより傷むため何度も研ぐ必要があった.2 例の患者に行い,それぞれ3500Jと14700Jを要した.
 Penselら9)はYAGレーザーの連続波を使用し1cmの結石を空気中で50Wで20分(60000J)で割ることができた.fiberを結石に近付ければ効率が良くなるがfiberが壊れやすくなった.
 Watson10)はアルゴンレーザーの連続波をfiberを介して結石に照射したが,結石を気化させるのにYAGレーザーと同等のエネルギーを要し,500J照射したあとで手で持とうとすると非常に熱くなっていた.

パルス波

ルビーレーザー

 Mulvaneyら11)は1968年にルビーレーザーのパルス波により破砕を試みた.パルスあたりのエネルギーは50ー300Jと非常に高く,パルス巾についての記載はないが,エネルギーが非常に高いことから想像して100-1000 microsecondだったのだろう.彼らはパルス波が結石を気化させるのでなく,破砕してくれることを示した.
Fair12)は2JのQスイッチレーザーを固体に当てると1 Kilobarの圧を与えると述べている.この圧は,パルスレーザーによって生じるプラズマを透明な固体内に閉じ込めれば非常に強めることが出来る.彼は,結石を石英板で作った箱の中に入れ,20 nanosecondのパルス巾のQスイッチルビーレーザー(1.8J/pulse)を当てたところ衝撃波が生じ破砕された.

YAGレーザー(Qスイッチ)

 Penselら9)はQスイッチYAGレーザー(5J/pulse以下)を一発だけ,fiberを介さず直接結石に焦点を合わせて当てた.パルス波では結石は気化せず,破砕された.彼らはこのパルスを何発もあてる研究をしなかった.連続波を映写機の羽のようなもので区切ってパルス状にしてみたが,連続波と同じ作用しかなかった.
Watson10)はQスイッチYAGレーザー(元々の1064nmの波長)や周波数を倍にしたQスイッチYAGレーザー(532nmの波長)のようなパルス波は結石の破砕に適していることを確認し,さらに30分前に殺した豚の腎臓に蓚酸カルシウム結石を入れ,周波数を倍にしたQスイッチYAGレーザー(532nmの波長)を,パルス巾15 nanosecond,1パルスあたり600mJまで,繰り返し速度は10Hzまでで当てた.結石は3分で壊れ,更に20分腎盂に当てた.腎盂には肉眼上変化はなかった.この結果は臨床応用への期待を抱かせるものであり,次に彼はこのレーザーをfiberで導光できるかを検討したが,fiberの遠位端からレーザーが出てこず,パワーを上げるとfiberの近位端が粉々になった.QスイッチYAGレーザーのパルス巾は15nanosecondであるので,パワーが100mJのレーザーを600micron径のfiberに通そうとするとパワー密度は2300Megawatt/cm2となり,まったくきずのないガラスの域値に近く,ごく僅かのきずでfiberが壊れることになる.

100 microsecond YAGレーザー

Qスイッチレーザーは組織を損傷せずに結石を破砕するが,fiberを通せないことが判明した後,Watsonはこのレーザーを試みた10).パルス巾100 microsecond,1パルスあたり1Jまで,繰り返し速度は30Hzまでで,金属に穴を開ける工業用レーザーである.空気中では特に良く結石を破砕したが,結石は熱くなっていた.水中では効果が落ちた.次に600micron径のfiberを通して700mJ/pulseで5mm結石から離して当てた.水中でも空気中でも効果は弱かった.fiberを結石に密着させると良く壊れたがfiberの先も壊れた.空気中ではカルシウム結石にこげめをつける作用があった.尿酸結石とシスチン結石は完全に気化した.水中ではfiberを結石に密着させてもfiberの先は壊れなかった.水中では尿酸結石はすぐに破砕された.蓚酸カルシウム結石とシスチン結石はまったく破砕できず,燐酸カルシウム結石はゆっくりと気化した.従って,カルシウム結石はまず空気中で当ててこげめをつけ,水中でfiberを介して当てるということを,何回か繰り返すことにより,結石を壊すことにした.この方法でもシスチン結石だけは破砕できなかった.
 動物実験の結果.
1.層状構造をした燐酸カルシウム結石を1.5mmの厚さにしたものを,摘出した豚の腎盂にのせて,600micron径のfiberを通して700mJ/pulseで30Hzで40秒空気中で当てた.腎盂は5mmの深さの所では温度上昇は僅かであった(0.5-1.8℃)が,1mmの深さの所ではかなりの温度上昇(13-28℃)が見られた.摘出した豚の腎盂や尿管内に結石を入れ,内視鏡下で破砕実験をした.尿酸結石は壊れ易く破砕中の尿管の温度上昇は6.9℃までであった.蓚酸カルシウム結石では,まず空気中で当ててこげめをつけ,水中でfiberを介して当てるということを,何回か繰り返すことにより,結石を壊したが,この際尿管は26℃上がった.シスチン結石は空気中で気化させる以外に方法がなかったが,この際尿管は55℃上がった.
 2.犬を全麻下に膀胱高位切開し,蓚酸カルシウムと燐酸カルシウムの混合結石を植え込み,恥骨上から入れた膀胱鏡下で生理食塩水内でレーザー破砕を試みた.少ししか割れなかった.時々失敗して膀胱三角部を照射した.次に膀胱を空にし,層状構造をした燐酸カルシウム結石を1.5mmの厚さにしたものを膀胱の後壁の2箇所に置き,それぞれ20秒と40秒照射し,膀胱を縫合した.10日後,再開腹し,左尿管を切断し,4mmの蓚酸カルシウム結石を詰め込み,尿管鏡下で空気中で当ててこげめをつけ,水中でfiberを介して当てるということを,2回繰り返すことにより,結石を壊した.右尿管と膀胱側壁には直接レーザーを当てて,3時間後に殺した.
膀胱三角部には筋層に及ぶcraterがあった.層状構造をした燐酸カルシウム結石を1.5mmの厚さにしたものを膀胱に置き,20秒照射した部分には,lamina propriaに及ぶ浮腫を生じており,40秒照射した部分には筋層に及ぶcraterがあった.左尿管の損傷ははっきりしなかったが,結石も満足には壊れていなかった.
 殺す3時間前にレーザーを照射した膀胱側壁は,1秒ではlamina propria迄,4秒で筋層迄,13秒で全層がおかされていた.
 このレーザーは結石を破砕できるエネルギーでは,組織を損傷することが示された.またこの1064nmという波長は,色の薄い結石には吸収され難いようであった.

エキシマレーザー

 エキシマとは,励起状態においてのみ存在する分子のことで,この分子が解離する時に紫外パルス光を放出するのを利用したレーザーがエキシマレーザーで,発振波長は封入ガスにより異なり,パルス巾は10ないし15nanometerと短い.
 Watson10)はエキシマレーザーをレンズを介して0.5mmのspotにして結石表面に当てる実験を,空気中,水中,空気中で水をかけながら(破砕されて粉々に飛び散る結石がレーザーの通過を妨げている可能性があったので),の3とうりで行った.フッ化アルゴンガスによるエキシマレーザー(波長197nm)を12mJ/pulseで100Hzで燐酸マグネシウムアンモニウム結石に当てると小さい穴ができた.水中では効果がなく,空気中で水をかけながらやっても効率は上がらなかった.焦点で気泡が無数に発生した.
フッ化クリプトンガスによるエキシマレーザー(波長249nm)を2x0.5mmのspotで当てると15mJ/pulseで目に見える効果が出た.空気中で50000発当てると111.5mg結石の重さが減ったが,ろ過しても1mgしか回収できなかった.水中で50000発当てると25.6mg結石の重さが減ったが,ろ過しても1mgしか回収できなかった.空気中で水をかけながらだと37.5mg結石の重さが減った.蓚酸カルシウム結石に水中で50000発当てると92mg結石の重さが減った.水をろ過しても19mgしか回収できなかった.
塩化クセノンガスによるエキシマレーザー(波長308nm)を2x0.5mmのspotで当てると12mJ/pulseで目に見える効果が出た.100mJ/pulseで蓚酸カルシウム結石に水中で6000発当てると23.9mg結石の重さが減り,燐酸マグネシウムアンモニウム結石では6000発当てると30.1mg減った.
フッ化クセノンガスによるエキシマレーザー(波長351nm)を4x1mmのspotで当てると17.5mJ/pulseで目に見える効果が出た.他の波長と違って,craterのまわりにこげめがついた.26mJ/pulseで燐酸マグネシウムアンモニウム結石に空気中で50000発当てると176.5mgしか減らず,水中で50000発当てると15mgしか減らず,蓚酸カルシウム結石に水中で50000発当てると45.5mgしか減らなかった.
ろ過して回収できる結石の重量は常に減少量より少なかった.破砕された結石の大きさは大体30-50micronであった.
フッ化クセノンガスによるエキシマレーザーを1mmの石英fiberを通してみた.4x1mmのspotを丸い穴を通すことにより周りを切捨ててからfiberを通した.90%通過し,30mJのパルスが伝達できた.結石から5mm離して30Hzで,蓚酸カルシウム結石に水中で20秒当てると(30mJ*30Hz*20sec=18J),50mg結石の重さが減った.燐酸マグネシウムアンモニウム結石では20mg,シスチンでは35mg減った.破砕された粉は霧状に広がった.実験途中でfiberが壊れてしまい,ついに彼はエキシマレーザーはfiberを通せない,従って内視鏡操作に適さないとの結論に達した.

IV パルスダイレーザー

 組織障害を起こさない程度のエネルギーで結石を破砕するには,結石に吸収され易く,生体に吸収され難い波長のレーザーが好ましい.Watsonは吸光計を用いて種々の波長での結石の吸光度を測定した.1000nm付近の波長の光(赤外線)は結石にほとんど吸収されず,より短波長になるほど良く吸収されることを確認した彼はパルスダイレーザーの実験を開始した.
このレーザーはフラッシュランプで色素を励起することによりパルス波のレーザーを発生させるものなので,色素を交換することにより種々の波長のレーザーが出せ,またフラッシュランプの放電時間を変化させることによりパルス巾も1μsecから300μsecまで可変である.パルス巾が1μsec以上とQスイッチ YAGレーザーの15nanosecondよりはるかに長いので,非常に細い石英fiberを通すことができる.
パルスダイレーザーをどの条件(波長,パルス巾,fiberの太さ)で使うのがいいかの基礎実験として,波長は,445nm,504nm,577nmとで,パルス巾は,1μsec,10μsec,120μsec, 300μsecとで,fiberの太さは,200Micron,400Micron,600Micron,1000Micronとで比較した13).人の結石を5cmの深さの水中に置き,レーザーをあてた.出力は低値から次第に上げ,破砕の起きる域値の出力を求めた.波長は短いほど,パルス巾は短いほど,fiberは細いほど,少ないエネルギーで破砕できた.
この基礎実験の結果,パルス巾は1μsecが,fiberの太さは200Micronが採用されることになったが,波長は445nmではなく504nmが採用された.その理由をWatsonは445nmの波長の光は504nmの波長の光よりヘモグロビンに吸収されやすく,従って組織障害性が高いことが考えられるためとしている.
 豚の腎盂を切開し上部尿管に結石を詰め,経尿道的に尿管鏡を挿入し波長504nm,パルス巾1μsecのパルスダイレーザーによる破砕実験を行い,上部尿管の病変を検討した結果,レーザーはEHLより害が少ないことが解った14).下部尿管の病変は上部尿管より強く,尿管鏡挿入による合併症が最も大きいことも判明した.レーザーのfiberはEHLより細く,その分尿管鏡も細くて良く,尿管への侵襲が少なくできると考えられた.
こうして,波長504nm,パルス巾1μsecのレーザーを,200Micronの太さのfiberで,10Hz(毎秒10発)の繰り返し速度で,30-60mJ/pulseのパワーで照射する装置が臨床応用されることになった15).その装置はすでにアメリカではCandela社により商品化されており(図2),日本でも著者らの教室などで治験が終了し16)厚生省に申請中であり,近々承認されるものと思われる.
Coptcoatらの最近の報告17)によれば107例の尿管結石患者に9.5Fの硬性尿管鏡下に行い,成功率84%であった.失敗例は石が腎盂に逃げたもので,PNLもしくはESWLで治療した.破砕に要したパルス数は100発から1200発,平均500発で,合併症は尿管鏡による尿管口の狭窄を2%に認めただけでレーザーに起因したものはなかった.
 パルスダイレーザーによって結石が破砕される機序については,下記3通りの可能性がある10).
 (1)パルスレーザーによって結石のごく一部だけが暖められて膨張し,その圧力によって結石が壊れる.fiberが細いほど,暖められる体積は小さくなり,同じエネルギーでも高温になりやすい.この理論は連続波では破砕されない理由を説明してくれるが,パルス波によって暖められた一部から他の部分に熱が伝わるには1 millisecondかかり,パルス巾が1 microsecondか300 microsecondかで破砕効果に大きな差が出ることは説明できない.
 (2)結石内に生じた蒸気による破砕.結石の中には0.5 micronから100 Angstromぐらいの洞窟があって気管支のようにつながっている.この中で水が蒸発して膨張し破砕するとの考え.沸点の高いglycerolの中では破砕効率が悪くなるが,150℃に暖めてからやると水中と同等の効果が得られることが実験で示されているが,この理論により説明できる.パルス巾が長すぎると,蒸気が洞窟を伝わって逃げてしまう.
 (3)結石表面でプラズマが発生することにより破砕される.プラズマとは結石の色素がレーザーエネルギーを吸収して気化する時にできる局所的なイオンと電子の集合である.パルス巾は短いほど,fiberは細いほど,結石は良く壊れたが,これはパワー(Watt/cm2)が高いほど良いことを示している.パワー(Watt/cm2)が高いほど,プラズマも発生しやすい.プラズマが生じると,元々のレーザーの波長とは異なる波長の光が放出され,かつエネルギーの一部が音に変換されるということが知られている.Candela社のFurumotoは結石に504nmのレーザーを当てた時,504nm以外の波長の光が放出されていることを証明した.プラズマは水中では膨張を制限されるため,衝撃波を発生させることとなる.

V 改良の余地について

 レーザーによる破砕器が実用化されるまでの経過をこうして振り返ってみると複数の研究者の努力の積み重ねというよりWatson個人の執念がいかにこの分野の発展に寄与しているかがわかる.彼は利用可能なレーザーはことごとくチャレンジしたようであり,その結果選択された波長504nm,パルス巾1μsecのパルスダイレーザーは最良のものとの印象を抱いてしまう.しかし彼の論文を詳細に検討すると,論理が飛躍している点もいくつか発見できた.
 第1点は,波長が445nmのほうが破砕効果が良いのに,445nmの波長の光は504nmの波長の光よりヘモグロビンに吸収されやすいとの理由だけで実際に組織障害性の動物実験をすることなく504nmを採用したことである.
 第2点は,パルス巾について1μsec(=1000 nanosecond)と15 nanosecondとの間のものについては検討されていないことである.単位時間あたりのパワー(Watt/cm2)が高いほどプラズマが発生しやすく破砕効率が高くなる.パルスあたりのエネルギーが同じでも,パルス巾が短いほどパワーが高くなるので,破砕効率を高めるにはパルス巾が短いほど良い.しかしQスイッチ YAGレーザーやエキシマレーザーのようにパルス巾が15nanosecondと極端に短いと,パワー密度が極度に高値となり,まったくきずのないガラスの域値に近く,ごく僅かのきずでfiberが壊れることになる.石英fiberを通せる範囲でしかも破砕効率がより良くなるようなパルス巾についてももっと検討されて良いと思われる.
第3点は,レーザー自体に関してはかなり詳しく検討してあるが,導光用のfiberについては,市売の石英fiber以外にはあまり検討してないことである.Candela社によるパルスダイレーザーの商品化を追いかける形でいま西ドイツのグループがQスイッチYAGレーザーによる破砕装置の実用化を目指して研究を続けている18).彼らはパルス巾が8 nanosecondのレーザーを600Micronのfiberで導光することに成功しているようである.石英fiberを通せないという理由だけでエキシマレーザーを断念するのではなく,より強固なfiberを探す努力もすべきである.
 我々の教室でも,軟性の尿管ファイバースコープを用いたTULに適したより良い破砕器を追求しており,レーザー破砕器についても上記のような改良の可能性につき検討を開始しており,その成果についてはいずれ報告したい.

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