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木村明:マスターベーションで前立腺炎が治るってホント?夕刊フジ,p13,10月28日号,2004.

マスターベーションで前立腺炎が治るってホント?


 以前「国際泌尿器雑誌」という権威のある学術誌にトルコの大学病院のチームが「前立腺炎の患者は週2回以上射精をしたほうが治りがいい」という論文を発表した。これが本当なら、自分でマスターベーションをしていれば治療効果があることになるわけだが、本当なのだろうか。
 「前立腺炎というのは、淋病やクラジミアといった性行為感染症にかかった人が、その原因菌は排除したものの炎症が残ってしまった状態」と話すのは、東京・墨田区にある山田記念病院泌尿器科の木村明医師=写真。頻尿やうずき、股間の不快感を伴い、イスに座るのにも難儀する人もいるという。血液検査をするとPSAという前立腺がんの腫瘍マーカーの値が上昇するが、炎症とがんとは無関係で、放置しても生命には影響はないという。
 では、その前立腺炎の治療にマスターベーションがどう関係してくるのだろう。木村さんが説明する。
 「副鼻腔炎(蓄膿症)と考え方は同じ。蓄膿の治療で、副鼻腔に溜まった膿を出すことで効果を高めるように、前立腺に溜まっている菌を射精することで体外に出すという考え方。その意味では、理にかなった考え方といえるでしょう」
 実際に泌尿器科では前立腺炎の治療法の一つとして「前立腺マッサージ」という治療がある。医師が肛門から指を入れて直腸壁越しに前立腺を刺激し、射精を促すというものだ。米国やフィリピンなどでは一般的な治療法として導入されており、日本でも健康保険の対象となる標準治療の範囲内だ。「中にはマッサージが原因で逆に痛みを引き起こす人もいて、慎重に経過を見ながら行う必要がある。ロシアではマッサージではなく、専用の器具を使って精液を吸引する治療を行っているところもあるが、前立腺に溜まった菌を出すという点で、考え方は同じ」と木村さん。
 では、射精は前立腺マッサージとマスターベーション、あるいはセックスでは効果は異なるのだろうか。木村さんは「基本的には同じ」としながらも、微妙な違いがある可能性も指摘する。
 「マッサージは前立腺の刺激をする部分が限定されるが、マスターベーションは陰茎全体を刺激するので前立腺全体の菌を出すことができるかもしれない。また、セックスをしてもこの菌はパートナーに移る性格のものではないので感染の心配はいらない」。そうなると、この論文は俄然信憑性が高まることになる。
 ただし、覚えたてのサルのように朝から晩まで手淫に耽っていたのでは意味がない。基本的には抗生物質の投与などの医学的アプローチの補助的療法なので、まずは医師の診断を受けることが先決。泌尿器科医の中でもこの疾患は得手不得手があるので、インターネットなどで情報を集めて医師を選ぶことが大切だ。

■ 前立腺炎治療の基本

・ 原因疾患(性病)の治療

・ 抗生物質などの薬物治療

・ 射精は週2回程度をメドに

・ 痛みがあれば、医師に相談


この記事は2004年のもので、3つのタイプのうちの細菌性前立腺炎についてのみ適応できる話です(2009年加筆)。
[前立腺炎]