従来、前立腺炎は単一の疾患ではなく、いくつかの異なる病因から形成される一種の症候群であると考えられ、その病型は急性細菌性、慢性細菌性、非細菌性、並びに前立腺局所に明らかな炎症所見を伴わない疾患群としてのプロスタトディニア、前立腺痛に分類されてきました。

 米国ではプライマリーケア・フィジシャンの扱う患者の1%、泌尿器科専門医の扱う患者の約8%が前立腺炎患者であると報告されています。これによりますと、およそ男性の50%が生涯に一度は前立腺炎に悩まされているということになり、驚くほど頻度の高い病態であると言えます。

 NIHの新分類では、Ⅰ型が急性細菌性、Ⅱ型が慢性細菌性であり、Ⅲ型として従来の非細菌性前立腺炎と前立腺痛とが慢性非細菌性前立腺炎ないしchronic pelvic pain syndrome(慢性骨盤疼痛症候群)として一括され、それぞれⅢA、ⅢBとに分類されています。また新たに無症候性炎症性前立腺炎がⅣ型となっていますが、これは前立腺癌の疑いにより検査目的で施行される前立腺生検や男性不妊症など他疾患の精査中に偶然に発見されるものであり、前立腺局所に炎症所見を認めるものの症状がないものということになります。

 これら前立腺炎の診断は、細菌性か非細菌性かに関わらず、前立腺局所に炎症所見があるのか否か、並びに前立腺という臓器に関連する症状、特に痛みに関連する症状があるのかが重要な要素となります。

 細菌感染症の診断に関しては、今でもMeares and Stameyの提唱した検体分画採取法が基本となります。具体的にはまず排尿の最初の部分を初尿として約10㏄採り、その後に中間尿を採取します。次いで前立腺マッサージを行って、前立腺分泌液を採取し、マッサージ後の初尿を再度約10㏄採ります。最終的にこれら四つの検体中における炎症細胞の有無と細菌培養の成績から、局所における炎症の有無と原因菌を決定することとなります。

 一方、慢性前立腺炎の症状は多岐にわたり、いわゆる不定愁訴も少なくないのですが、NIHのSymptoms indexの作成過程で明らかになったことは、本症は疼痛を主体とする病態であり、36歳から50歳の年齢層に好発し、排尿に関しては閉塞症状より刺激症状が中心となり、QOLに与えるインパクトは前立腺肥大症よりはるかに大きいということです。

 Symptoms indexは疼痛ないし不快感について、その部位、排尿と射精との関連、それらの頻度と程度に関する4項目、排尿刺激症状に関する2項目、症状が日常生活に与えるインパクトに関する2項目、並びにQOLの1項目の合計9項目からなっています。