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平成8年11月20-22日 第68回日本超音波医学会(奈良).
最大横断像縮小コピー配列による疑似積層法(第3報)
ーPSADの分母としての有効性の検討

木村明,北村唯一,黒岡雄二,河邉香月


スライド1  前々回及び前回,前立腺体積の計測法として新たに,両断面の前立腺輪郭トレースによる方法(疑似積層法)を提案した.疑似積層法は,横断像を縦断像内にはまるように縮小コピーしたものを配列した模型を作成するものである.計算式は下の式の様に,Amaxに厚さ0.5cmと縮小率の2乗の累計を掛けたものになる.

積層法と比較した体積計測値の誤差 (%)

 癌   肥大症   正常

疑似積層法  -7.3 -6.6 -6.6
回転楕円体法 -14.8 -20 -31.4
直方体法   -9.9 -13.4 -15.3


スライド2 150例での3方法の精度のまとめを表に示す.疑似積層法が最も正確で,また,肥大症を特に過小評価するといった,疾患による偏りがなかった.

15個の3Dモデルでの、走査角度が90度
変化したときの変動の程度の平均(%)

疑似積層法 楕円体法 直方体法
正常  21.8   39.6   31.8
肥大症  17.4   41.2   22
癌    22.4   41.6   28.2

スライド3  疑似積層法、楕円体法、直方体法での,走査角度が90度変化したときの変動の程度を示す。疑似積層法は,走査角度への非依存性でも,回転楕円体法,直方体法より優れていた.

対象

1. EIAによるPSA測定
2. biplane探触子によるTRUS
3. 前立腺針生検もしくは前立腺切除術
により病理診断が確定
の34例

癌 10例 非癌 24例

スライド4  肥大症の体積を特に過小評価する傾向の強い回転楕円体法,直方体法は,PSADの分母として不適な可能性があるので,PSADの分母としての有用性を検討した.対象は,EIA法によりPSAを測定し,バイプレーン経直腸的超音波断層法を受け,前立腺生検もしくは前立腺切除術で組織診のついた34例(癌10例,非癌24例)である

スライド5  現在,疑似積層法を組み込んで下さっている,観測装置はないので,以下のようにして,疑似積層法の体積を求めた.最大横断面積は観測装置の計測機能により求めた.

スライド6  縦断像での5mm間隔の上下径は目盛りの記入された透明シートを重ねて読みとった.

スライド7  最大横断面積,縦断像での5mm間隔の上下のポイントを,パソコン用表計算ソフトexelに入力し,縮小率の2乗の累計,それに横断面積,厚さ0.5cmを掛けた体積を求めた.

スライド8  左に疑似積層法を分母としたPSAD,中央に直方体法を分母としたPSAD,右にPSAの値そのものの分布を示す.癌症例の最低値をcut off値とすると,specificityはそれぞれ88%,83%,38%となった.

スライド9  cut off値を変化させたときのsensitivityとspecificityの関係,ROC曲線を示した.縦軸がsensitivity,横軸が1ーspecificityである.疑似積層法を分母としたPSADの方が直方体法を分母としたPSADより概して曲線が左寄りにあり,有効と思われた.

まとめ

1.症例数が不充分ではあるが, 疑似積層法による
PSADは3軸を掛け合わせる方法より,
specificityが優っていた.

2.疑似積層法の数式は簡単で, 表計算ソフトを
用いれば簡単に求められるので, 追試を
お願いしたい.

$スライド10  まとめを示す.当科では最近PSAの測定法がRIA,化学発光,EIAと頻回に変更された.このため,今回は少数例での検討となり,ROC曲線を描くには充分な症例数ではなかった.疑似積層法を組み込んだ超音波装置はないが,表計算ソフトと目盛りの記入された透明シートがあれば,求められるので,他施設での追試をお願いしたい.