link to Kimura's HP
掲示板へ

私の著書 「尿の悩みを解決する本」 <教育書籍> (千円) の下書き原稿


腎不全

 この本の初めの泌尿器の説明に書いたような腎臓の働きがなくなることを腎不全といいます。
 腎不全の原因は腎に百万個ある糸球体が次々につぶれて行くもので,圧倒的に多い原因は慢性腎炎です。そのほかにも、高血圧性腎障害、糖尿病、痛風,膠言病など内科でみる病気や,腎盂腎炎、腎結核、腎結石、水腎症といった泌尿器科でみる病気、さらには先天性の病気である多発性嚢腎、腎形成不全によるものもあります。
 腎臓の働きが悪くなり始めると,尿毒素のもとになる蛋白の制限,塩分制限など食事療法により、腎臓への負担を少しでも軽くすることが必要になります。しかし、いくら大事に使っても残った正常部分の腎臓にはかなりの負担がかかり,食事療法を守っても腎機能は次第に低下し、老廃物、水分、塩分が体内に蓄積してきます。そのため、体はむくみ、血圧は上昇し、頭痛、はきけなどの尿毒症と言われる症状が出現してきます.そしてついには,透析療法あるいは腎移植を受けなければ、生命は維持できなくなってしまいます。

治療法

 腎臓がほとんど働かなくなると、腎臓の働きを人工的に行う透析療法が必要になります。「透析」とは、老廃物や水を濾過し分離することで血液をきれいにするという意味で、血液浄化法とも呼ばれます。血液浄化法で一番普及しているのは血液透析で,現在日本で十三万人が血液透析を受けています.もう一つの方法にCAPDがあり,日本で普及し始めて十五年たち,七千人がこの方法で治療を受けています。
 腎不全の人が透析から解放される手段に腎移植があります。これは、他の人の腎臓をもらい、体内に植え込む方法です。

血液透析

 血液透析(略称HD)は現在、最も広く行われている透析方法です。
 血液透析では、血管に二本の針を刺して一方からポンプで血液を取り出し、透析器を通して血液をきれいにしてからもう一方の針でその血液を体に返します。
 あらかじめ、前腕の動脈と静脈を皮下でつなぎあわせる簡単な手術をしておいて,静脈を太くしておきます.太くなった静脈に針を刺して血液を連続的に取出し、透析器に送り込みます。透析器はセロハンのような半透膜によって二つにしきられ、内側を血液が毎分200mlの速さで、外側を透析液が毎分500mlの速さで通るようになっています。半透膜は,水分子や塩分,尿素などの小分子は通すが,赤血球や蛋白などの大きな分子や細胞は通さない膜です.そこで、血液中の不要な老廃物や水分が半透膜を通り抜けて透析液側に移動します.きれいになった血液は、血管に刺したもう1本の針から再び体内に戻します。人間の体の中にある約五リットルの血液の三十分の一を毎分取り出してきれいにしてから,戻しているわけです.戻された血液はまだ洗ってない血液と混ざります.その混ざった血液をまた透析器に取り出して洗う訳ですからかなり効率の悪い洗い方です.血液透析では、週3回通院し、1回4~5時間の透析を受けます。四時間に透析器の中で洗われる血液量は,五十リットルにもなります.五リットルの血液を一度全部取り出して,きれいに洗った血液を順次体に返すことができれば,三十分足らずで終わるのですが.
 透析の目的は,老廃物の除去と,余分な水分の除去です.老廃物は半透膜を越えて流れ出してくるのを待つしかない受け身の作業ですが,水分は透析器の圧力の調整で能動的に引くことができます.透析開始時に体重が二日間でいくら増えたか量ります.増加分が余分な水分です.透析中に水分を抜く量を機械に命令しておくと,機械は透析液側の圧を血液側の圧より低くして、命令通りに体内の余分な水を抜いてくれます.

CAPD(連続携行式腹膜透析)
 24時間毎日連続して腹膜透析を行い、透析中も活動できる透析療法という意味の英語の頭文字をとったものです。病院で十分な訓練をうけた後、患者自身が、毎日自宅あるいは職場などで、透析を行うものです。
 CAPDを行うには、透析液を定期的に腹部の内臓の間のすきまの腹腔という所に出し入れします。カテーテルというやわらかいチューブをあらかじめ手術によって腹部に埋め込み、透析液の通りみちをつくっておきます。そして、患者自身が、2㍑の透析液を腹腔内に出し入れします。内臓をおおっている腹膜という膜は薄くてしかもすぐ下に網細血管がたくさんあるので,これが血液透析での半透膜の役目をして、体内の不要な廃棄物や水分が透析液中へ移動し、血液がきれいになります。実際の操作は,まず、お腹から出てくるチューブを透析液の入ったプラスチックバックにつなぎ、バックを高いところにつるします。バックの透析液は、10分前後で腹腔内に入ります。空になったバックは折りたたんで身につければ、ふだん通りの生活が行えます。数時間後、空パックを取りだし、足もとに置くと、老廃物を含む液がお腹から出てバック内にたまります。バックがいっぱいになったら、また新しい透析液バックにチューブをつなぎ直し、同じ操作を繰り返します。古いバックにたまった液は、トイレなどに捨てます。通常、このバックの交換操作は、1回30分程度で完了し、早朝、昼、夕方、夜の1日4回行います。病院へは月1~2回診察と薬を処方してもらうために通院するだけですみます。
CAPDに使う透析液と血液透析のものとの違いは,CAPDでは濃いブドウ糖が入っていることです.体内の水を引くためには,血液透析ではポンプの力が使えますが,CAPDの場合は,透析液のほうの浸透圧を血液より高くしておかなければならないからです.十年くらいすると腹膜が疲れてきて,この浸透圧で水を引くことができなくなる患者さんが出てきつつあり,対策が検討されています.

腎移植
 腎不全の患者が透析から解放される唯一の手段が腎移植です。腎移植が成功すれば、透析が不要になりますが、移植した腎臓が良好に働き続けるためには、拒絶反応を抑えるための薬を飲み続ける必要があります。
 腎移植を受けるためには、手術前に多くの検査を行い、腎臓提供者との血液型などの相性を調べます。移植する腎臓の提供数が少ないことや,提供者との相性が合わないなどで、希望しても必ず移植できるとはかぎりません。また、移植しても拒絶反応がおこり、成功しない場合もあります。
 腎移植には生体腎移植と死体腎移植があります。生体腎移植は肉親から腎臓を提供してもらう方法で、死体腎移植は死亡した人の腎臓を提供してもらう方法です。
 日本移植学会では,生体腎移植での臓器提供を血のつながりのある者に,原則として限っています.これは,臓器売買を許さないためです.他人はもちろんダメですし,夫婦や養子も,入籍だけして偽装することもできますので,原則は臓器の提供者になれません.しかし,あくまで,移植に関係する医者の作った学会の取り決めですから,拘束力はありませんし,その取り決めにも,「原則として」という言葉がついていて,個々の扱いは主治医の良識にまかされます.腎臓病になるはるか前から養子であった,という場合などです.
 移植手術は、ほとんど危険はありません。移植する腎臓はもとの腎臓の位置ではなく、骨盤下部に植え込み、血管や膀胱とつなぎ合わせます。もとの腎臓の位置に移植すると,腎臓が働いても血液の通わない尿管が腐って尿が膀胱に流れなくなることがあるからです.移植された腎臓は,正常な腎臓と同じように働きます。しかし,手術後しばらくしてから拒絶反応が起こり、重篤な症状が出る場合があります。このような場合には、移植した腎臓を再び取り出す必要があります。
link to Kimura's HP
掲示板へ