木村明:精巣腫瘍.標準治療2002/2003,p1015-1017,
日本医療企画,東京,2002.
（病名）精巣腫瘍
（病気の概説）
精巣腫瘍は比較的まれな腫瘍ですが，青壮年層に好発する点と、たとえ転移を有する進行癌でも根治が期待できる点で注目されている癌です。その90‐95％は胚細胞性腫瘍といって、子孫を残すための細胞（精子の基になる細胞）から発生する癌です。精巣腫瘍は抗癌剤療法がきわめて有効な癌として有名で、特にシスプラチンを中心とした多剤併用化学療法の開発により，たとえ転移を有する進行癌でも根治が期待できます。組織学的にはセミノーマと非セミノーマに大別されます。非セミノーマのなかでも特に絨毛癌成分を含むものの予後は不良です。
（症状）
青壮年層に好発し、陰嚢内容、とりもなおさず精巣が無痛性に腫大し、硬くかつ重く触れます。
（診断）
CT検査でリンパ節転移がないかを調べます。血液検査でHCG（性ゴナドトロピン）やAFP（胎児性タンパク）といった腫瘍マーカーを調べます。
（治療・予後）
治療法は，組織型と臨床病期により決められます。臨床病期１は、精巣に限局しているもの、臨床病期２は、リンパ節転移があるものの、横隔膜以下にとどまっているもの、臨床病期３は、横隔膜より上のリンパ節か、肺や肝臓、骨などの他臓器に転移のあるものです。
◆治療方針
全例において高位除睾術を行います。摘出した精巣を病理検査にまわして、癌の組織型を調べます。
１．病期別の治療方針
ａ．病期１ セミノーマでは，局所リンパ節領域に予防的放射線照射がなされる場合と経過観察のみの場合とがあります。予防的放射線照射を行った場合の非
再発率は９５％、経過観察のみの場合の非再発率は８０％です
。再発した場合にも、後述の病期２、３の治療を行えば、最終
的な成績は同じになると言われています。
非セミノーマでは，後腹膜リンパ節郭清を勧めることもあります。また，予防的に化学療法が施行される場合と経過観察でよいとする場合があります。この病期では予防的治療や後腹膜リンパ節郭清の適応について、まだ、データが出そろっていないので、医師と患者が相談して予防的治療を行うかどうか、試行錯誤している段階です。
ｂ．病期２、３ 転移を有する進行癌では多剤併用化学療法が治療の第１選択肢となります。はじめに，導入化学療法（初期化学療法）としてPE療法４クールもしくはBEP療法３クール施行がされます。これで完全寛解が期待できない重傷進行例では末梢血幹細胞輸血による大量化学療法を前提として末梢血幹細胞を採取する場合があります。導入化学療法で40‐60％の完全寛解が得られます。不完全寛解例ではさらに数コースを追加したり，大量化学療法に移行します。また，手術によって残存病巣の摘出も積極的に行われます。しかし，マーカーが陰性に至らない症例の手術成績は不良です。精巣腫瘍の治療は完全寛解を目指すのが原則です。手後れの癌患者に、気休めに行う治療ではありませんので、治療方針の決定は高度に専門的知識のもとに行われなければなりません。
２．精巣腫瘍における多剤併用化学療法
ａ． EP療法
処方例
シスプラチン 20mg／体表面積１平方メートルあたり 静注 第１‐５日
エトポシド（ラステット） 100mg／体表面積１平方メートルあたり 静注 第１‐５日
これを３週ごとに４クール
ｂ．BEP療法
処方例
シスプラチン 20mg／体表面積１平方メートルあたり 静注 第１‐５日
エトポシド（ラステット） 100mg／体表面積１平方メートルあたり 静注 第１‐５日
ブレオマイシン 30mg静注 第2,9,16日
これを４週ごとに３クール
（特別なコメント）
HCG（性ゴナドトロピン）について補足します。
絨毛癌は女性では有名な癌で,妊娠後、特に胞状奇胎の後によく発生します.妊娠すると、胎盤を形成する絨毛細胞という細胞が出てきます.腫瘍マーカーのひとつ、HCG（性ゴナドトロピン）は絨毛細胞が分泌するホルモンです.現在市販されている妊娠診断薬は、尿中にでてきたHCG（性ゴナドトロピン）を検出しています.尿中にHCG（性ゴナドトロピン）がでてきたということは、体の中に胎盤ができた、すなわち妊娠した、ということになるわけです。
絨毛癌成分を含む精巣腫瘍では、血液中のHCG（性ゴナドトロピン）が高値となるので、HCG（性ゴナドトロピン）が精巣腫瘍の腫瘍マーカーとして使用されています。
ドリカムの吉田美和さんの夫：末田健さん（３３歳）が胚細胞腫瘍で死去したことに関して、2007年10月7日放送予定の日テレ：THE・サンデーで取り上げたいので、胚細胞腫瘍とはどんな病気なのかの説明をしてほしいとの依頼が10月5日にあり、取材に応じました。
こちらをご覧下さい。
