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和文論文79


もっといい日

高齢者のための専門サイト「前立腺がん」ホームページを開設


●男性なら気になる前立腺がんの情報を集めたホームページ
 最近、インターネットの利用者が高年齢化しています。かつては20代、30代が中心 となってインターネットを育て、支えてきたと言えますが、このところ一挙にシニア 層が仲間入り。インターネットでの株取引やオークションなど、多くの中高年がイン ターネットの世界に参加するようになり、中高年を対象としたパソコン教室やノウハ ウ本も人気です。
 「たしかに、自分でアクセスしてくる中高年の患者さんが増えましたね」。こう話 すのは、前立腺がんに関するホームページを個人的に開設している東京共済病院泌尿 器科の医師、木村明氏です。インターネットの高年齢化とともにがん、たとえば前立 腺がんに関するホームページへの関心が広がりを見せています。意外なところでイン ターネットの普及を認めざるをえません。 
 前立腺がんは50代後半から60代前半の男性に多いがん。膀胱の出口にあり、精液に 含まれる前立腺液をつくる、男性特有の器官が前立腺です。そこにがん細胞が増殖 し、ほとんどが30年とか40年とかのゆっくりした時間をかけて進行します。患者数は 予想以上に増えており、70代以上では死亡原因の上位にランクされるほど。 尿が出にくくなったりするのが自覚症状と言えば自覚症状と言えます。しかし、排尿 の困難な病気としては、他に、通常の16グラムから数倍も脹れ上がる前立腺肥大症が あります。前立腺肥大症の手術をした患者が実は前立腺がんに罹っていたという話は 珍しくありません。
 「前立腺肥大症と前立腺がんの間に直接の因果関係はないのですが、その鑑別は、 PSA(前立腺特異抗原)検査や生検によって決まります。腫瘍マーカーとなるPSAは前 立腺の細胞の中だけでつくられるタンパク質のことで、この値のいかんによって前立 腺がんの疑いが生まれ、最終的に、切除した組織にがん細胞が含まれていれば、前立 腺がんの診断が下されます」と木村氏。
 かつては、検査の手だてもなく、骨へのがん細胞の転移による神経痛のような痛み が原因で末期がんが発見されるケースが見られました。現在は、人間ドックや集団検 診ではもちろんのこと、地域のクリニックや病院でも血液採取によるPSA検査が行わ れ、早期発見に貢献しています。「前立腺に限局したがんがあるステージBでは5年生 存率は約90%と、早期発見できた患者の予後は非常に良いのです」と木村氏は言いま す。

●セカンドオピニオンを求める相談も
 木村氏は6年前にPSAについての本『尿の悩みを解決する本』を出版し、その内容を ホームページで紹介しようとました。1997年9月のことです。そして、C言語を駆使 し、自力でホームページを開設。
 「当初はPSAのホームページのつもりで作成したのに、前立腺炎についての若者の 書き込みがほとんど。次第に前立腺がんの問い合わせが増え、それに答えていくにつ れ、前立腺がんの情報が充実しました」と木村氏は話します。 胃がんや肺がんに比べ、一般の知名度は低いのですが、前立腺がんに罹ると、その根 本的治療は前立腺の摘出手術(根治的前立腺全摘術)がメインで、さらに手術後は性 機能や排尿機能を損なうことも稀ではありません。
 「実は、前立腺がんの治療では、標準治療にバラツキがあるのです。治療法として手術、放射線治療、ホルモン療法があります。癌細胞を根絶することを 目的とした手術や放射線治療を選ぶか、癌を抱えたまま寿命まで過ごすことを目的と したホルモン療法を選ぶかは、ステージやがんの分化度、患者さんの年齢などを考慮 して決めますが、医師によって手術を優先させるか、ホルモ ン療法を優先させるかの考え方が異なっています。はっきり言うと、医師も手術で癌細胞が完全に取りきれるのか、あるいはホルモン療法で寿命が来るまで、癌 細胞を押さえこめるのか、 自信がな いのが現状です。そこで、患者さんや家族からさまざまな問い合わせがやって来ま す。それに答えていくことが前立腺がん専門医としての使命だと感じました」と木村 氏は説明します。
 たまたま診療にあたった医師の得意な治療法を薦められる患者・家族としては、他 の治療法についての情報を求めるのは当然のこと。木村氏のホームページにセカンド オピニオンを依頼してくる患者や家族も多いのです。「最近の特徴として、患者さん や家族の方からの問い合わせのレベルが非常に高くなっていると思います。中には、 海外で発表された論文を引っ張ってきて、説明を加えてほしいという依頼をする患者 さんもいるのです。セカンド・オピニオンの問い合わせは珍しくありません」と木村 氏。
 たとえば、10カ所のうちの1カ所から悪性の細胞が見つかり、医師からは「手術を するのであれば、今が絶好のチャンス。でも、絶対やらなければならないと今の段階 では言い切れない」と言われ、悩む患者家族からの問い合わせがあります。また、前 立腺がんの生検の方法についての患者家族からの「質問攻め」に答えるうちに、その 内容がわかりやすくなるとともにいっそう深まり、多くの人の役に立ちったケースも あります。バイオプティ・ガンと呼ばれる生検用の装置で前立腺の6カ所に瞬間的に 針を刺し、組織を採取する針生検。その針生検は正常なのに、PSAの値が高いケース が紹介されているのです。患者家族からの詳細な経過報告とともに、主治医からはな かなか得られない診断法や治療法について情報がわかりやすく紹介されています。

●患者・家族が前立腺がんの診療情報を共有
 木村氏のホームページには、早期前立腺がんでは全摘出術、放射線治療、ホルモン 療法、診断といった項目ごとに、また、進行前立腺がんではホルモン療法の耐性や副 作用、がんの分化度や見通しの項目も加わって、患者・家族からの質問に対する説明 が掲載されています。
 患者と1対1の形で医療相談の電子メールを受け付けたり、個別に答えることは行わ ず、あくまで多くの患者に有意義な情報となるよう、掲示板で公開できる情報だけを 受け付け、答えるのが木村氏の原則。いまでは、患者からの問い合わせに答えていっ た貴重な情報は、一種の前立腺がんデータベースのような形でまとめられているので す。初めてアクセスする人でも、まずこのページから読み始めれば、おおよそのこと がわかり、余計な心配や不安は消えるはずです。
 「日本とアメリカでは前立腺がんについての反応が少し異なっていると思います。 アメリカでは、前立腺の全摘出に伴う勃起不全に対処するために、勃起神経を残す勃 起神経温存療法を医師が紹介したり、バイアグラの投与を薦めたりしますが、私がそ のようなことをすると、患者さんの家族から変な医者だと思われてしまうんですよ」 と木村氏。さまざまな情報を提示し、可能性を追求する木村氏の姿勢に共感します。
 最近、iモード対応にしたばかり。下ネタについての質問ばかりが多くて少し困っ ている木村氏ですが、今後はやはり前立腺についてのさまざまな病気について情報を 充実させていきたいと考えているのです。

■木村明医師のホームページ
東京共済病院泌尿器科の木村明医師が開設する前立腺についてのホームページ。前立 腺がんの診断や治療についての詳しい説明のほか、PSAの値から前立腺がんの確率を 計算するページも。ほかに、前立腺肥大症や前立腺炎の情報も充実。