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和文論文59



比例ハザードモデルによる前立腺癌の予後因子の解析
東京大学分院
木村 明,奥井伸雄,栗本重陽,西古 靖,保坂義雄,北村唯一
東京大学薬剤疫学教室
浜田知久馬
key words:前立腺癌,比例ハザードモデル
running title:前立腺癌の多変量解析
Multivariate analysis of prognostic factors in prostatic cancer.
Akira Kimura,Nobuo Okui,Shigeharu Kurimoto,Yasushi Saiko,Yoshio Hosaka, Tadaichi Kitamura,Chikuma Hamada*
Department of Urology,*Deparment of
Pharmacoepidemiology,The Univesity of Tokyo.
key words:prostatic cancer,proportional
hazard model
要旨
前立腺癌108例を比例ハザードモデルを用いて解析した結果,stage,年齢,内分泌療法への抵抗性が,瞬間死亡率とも言うべきハザードをそれぞれ,5.63倍,0.96倍,3.23倍にしていることが示された.
はじめに
 1970年から1989年までの20年間に当科で前立腺癌と診断された108例を対象に,1994年末時点での転帰を調査し,診断時の年齢,stage,grade,初回治療内容,内分泌療法施行例では有効例か抵抗例かが,予後に与える影響を比例ハザードモデルを用いて解析した.
対象と方法
症例の内訳は,stage A9例,B・C49例,D50例である.骨シンチグラフィーがルーチンではなかった時代から,超音波やCTがルーチンに行われる時期までの症例をまとめて集計するには,BとCを一緒にせざるをえなかった.治療法は,なし9例,内分泌療法のみ78例,放射線療法12例,前立腺全摘除術9例である.内分泌療法を受けた患者の内,内分泌療法有効例72例,抵抗例15例,判定不能7例であった.転帰は生存24例,癌死30例,他病死47例,追跡不能7例であった.解析は統計プログラムパッケージSASのPHREG procedureにより行った1).
結果
 108例全例での累積生存率は5年が45%,10年が29%,15年が18%であった2).
表に各予後因子のハザード比と危険率を示す.年齢のハザード比が1.03というのは年齢が1つ増える毎にハザードは1.03倍になることを示しており,10歳年をとればハザード比は1.03の10乗すなわち1.4倍になるということになる.stageB.Cの人はstageAの人の2.33倍危険であることになる.内分泌抵抗性以下の項目は危険率が5%より大きくこのモデルでは予後予測因子として有意とは言えない.前立腺癌死するかどうかになると,1歳年をとるとハザードは0.96倍となり減少することになる.stageが1ランク上がるとハザードは5.63倍になり,内分泌抵抗性であれば,ハザードは3.23倍に増える.前立腺全摘除以下の項目は危険率が5%より大きく有意とは言えない.
考察
 比例ハザードモデルは,治療法別の成績を比較する際,各群間で予後に影響を及ぼす因子に偏りがあっても,その影響を除いた上での比較が可能な統計手法とされている.しかし,今回の解析では,前立腺全摘除術などの治療法が有意な予後因子にならなかった.これは,治療法がstageと年齢に応じて決められていたため,この二つの因子に吸収されたものと思われた.内分泌療法抵抗性は予後を悪くすることが,今回の集計でも示された.内分泌療法抵抗性を,前立腺の縮小速度3)やPSAの減少率等で数値として示すことが今後前立腺癌の予後予測に役立つと思われる.
文献
1)大橋靖雄,浜田知久馬:生存時間解析ーSASによる生物統計.東京大学出版会,東京,1995.
2)福谷恵子,三方律治,武内功,河邊香月,横山正夫:前立腺癌の治療成績ーホルモン療法を中心として.日泌尿会誌,78,1821-1826,1987.
3)Kojima,M.,Ohe,H. and Watanabe,H.: Kinetic analysis of prostatic cancer treated with LHRHanalogues in relation to prognosis.Brit.J.Urol.,75,492-497, 1995.

表  各因子のハザード比と危険率(P)
多病死を含めた  前立腺癌死の
ハザード比 (P) ハザード比 (P)
年齢 (歳) 1.03 (0.047) 0.96 (0.044)
stage(A,B&C,D) 2.33 (0.001) 5.63 (0.001)
内分泌抵抗性 1.54 (0.116) 3.23 (0.007)
前立腺全摘除 0.54 (0.280) 0.54 (0.423)
放射線療法 1.13 (0.817) 1.10 (0.910)
grade (w,m,p) 1.02 (0.881) 0.82 (0.339)
第60回日本泌尿器科学会東部総会(盛岡)での発表原稿