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和文論文51



CAPD患者の生存率・腹膜機能の推移についての検討

東京都職員共済組合青山病院泌尿器科

キムラアキラ,ウチダケンゾウ,カミヤキョウイチロウ
木村明,内田健三,上谷恭一郎
(医師),(医師),(医師)

キーワード:CAPD,生存率,腹膜機能,限外濾過能,除水能低下

はじめに

 CAPDが血液浄化療法の1つとしてわが国に普及して10年以上が経過し,安定した治療法として定着している.当科では,1985年よりCAPDの導入を行ってきたが,この中には,原疾患や合併症等によりすでに死亡したものや,除水能の低下により血液透析に移行したものがあったので,1994年4月時点での転帰,予後を集計した.さらに,除水能についても,透析年数とともに低下していくものなのかという観点から検討してみた.

対象および方法

 対象は,1985年より1994年3月までに当科でCAPDの導入を行った43例の腎不全患者で,男性30例,女性13例,年齢は19歳から85歳,平均55歳であった.原疾患は,慢性糸球体腎炎が24例,糖尿病が14例,嚢胞腎が2例,膀胱尿管逆流現象が2例,急性腎不全が1例であった.透析期間は,2年未満の症例が23例,2年以上4年未満が13例,4年以上6年未満が2例,6年以上が5例である.
 1994年4月時点での転帰,予後を集計し, Kaplan-Meier法により累積生存率を求めた.
 また,外来通院の時期のあった33例につき,1994年4月時点(あるいは最終外来受診時)の1日あたりの平均除水量と尿量を集計した.このうち29例については,腹膜機能として,溶質除去能を評価した.1.5%ないし2.5%ダイアニール1.5Lないし2Lを4時間程度貯溜した後の排液を採取し,クレアチニンの透析液/血漿比(D/P-Cr)を測定した.33例の透析期間は,導入後2年未満の症例が13例,2年以上4年未満が13例,4年以上6年未満が2例,6年以上が5例である.

結果

 43例のうち,現在も当院でCAPDを施行中のものが19例,CAPDのまま他院に転院したものが5例,術後2週間で横隔膜交通症を生じCAPDの継続を断念したものが1例1),急性腎不全に対し短期間のみCAPDを施行したものが1例で,残りは,すでに死亡したものが14例,除水能の低下により血液透析に移行したものが3例であった.
 すでに死亡した14例は,原疾患が慢性糸球体腎炎のものが4例,糖尿病が8例,嚢胞腎が1例,膀胱尿管逆流現象が1例であった.剖検にて死因が確認されたのは,このうち3例で,糖尿病の2例が心不全,嚢胞腎の1例が腹部大動脈瘤破裂であった.原疾患が慢性糸球体腎炎で死亡した4例は,いずれも1986・1987年に導入した初期の例で,導入後10日から1年1月で死亡していた.
 Kaplan-Meier法により,転院例や血液透析移行例を観察中途生存例(打ち切り例)として求めた43例全例での5年累積生存率は66%であった.慢性腎不全の42例を原疾患が糖尿病か否かによって2群に分け,それぞれの生存曲線を求めた(図1).
 生存曲線
 5年累積生存率はそれぞれ57%,74%で,グラフからも糖尿病のほうが予後不良の傾向が見られたが,症例数が少ないためか,Logrank検定では有意差を認めなかった.
 除水能の低下により血液透析に移行した3例のうち,1例は毎年100ー200ml/dayずつ除水能が低下し,9年目に血液透析に移行した.6年目と5年目の2例は難治性の腹膜炎を契機として,その直前まで良好であった除水能が急激に低下し,血液透析に移行した.
 平均除水量と尿量
 表と図2に,この3例を含め,外来通院の時期のあった33例につき,1994年4月時点(あるいは最終外来受診日)の1日あたりの平均除水量と尿量を集計したものを示した.
 平均除水量と尿量
 導入直後はむしろ除水量が少ない例が多く見受けられたが,これらはまだ残腎機能があるためで,除水量と尿量を加えた値は,長期症例ほど低値を示した.
 D/P-Cr
 図3に,29例の1994年4月時点(あるいは最終外来受診日)でのD/P-Crを表示した.導入後の期間と溶質除去能との間に一定の傾向は見られなかった.
 透析期間6年以上の症例5例につき,導入から1994年4月時点(あるいは最終外来受診日)までの1日あたりの除水量と尿量の推移を見てみると,このうち2例では年50~100mlの割合で除水能が低下していたが,他の3例では除水能の漸減傾向は認めなかった.前者の2例は、経過中腹膜炎をそれぞれ、3回(32カ月に1回)、4回(19カ月に1回)起こしていたが、後者の3例はそれぞれ、0回、1回(72カ月に1回)、4回(24カ月に1回)起こしていた。

考察

 43例のうち14例がすでに死亡していた.死因別の集計は行わなかったが,これは,痴呆症のため経口摂取しなくなり,経管栄養・経静脈栄養を行って延命しているうち,次第に状態が悪化した症例や,閉塞性動脈硬化症のため両下肢切断術後に突然血圧低下し死亡した症例など,単一病名で処理しにくい症例が少なからずあったためである.
 透析医学会の集計2)は,血液透析の患者も含んだものであるが,慢性糸球体腎炎での5年生存率が70%,糖尿病では42%,全体では60%であり,当院での成績は僅かばかりではあるがこれを上回っていた.CAPD症例のみを扱った同程度の症例数の他の報告3,4)に比べ,当院での死亡数が多いのは,我々の集計が,第1例目から初期の症例もすべて含んでいるのに対し,他の報告では,最近数年間の集計を行っていることや,観察期間の違い,さらには社会復帰患者のみを対象としている3)等によると思われる.原疾患が慢性糸球体腎炎で死亡した4例は,いずれも1986・1987年に導入した初期の例で,肺水腫等,溢水が顕著になってから導入され,導入後退院することなく,10日から1年1月で死亡していた.今回の我々の集計では,これら初期の症例が1年生存率を下げ,結果的にその後の累積生存率全体を押し下げていた.
 CAPDの長期症例の増加に伴い,腹膜が透析膜としていつまで機能し得るかということが重要な問題となりつつある.Cantaluppiら5)はCAPD3年以上の症例の約11%に除水能低下が見られたと報告している.この除水能低下はCAPDの長期継続の成否を左右する重要な問題であるが,その機序について,腹膜が,中皮細胞の障害によって,”hyper- permeable”な状態,つまり膜透過性が亢進した状態となるためとする説がある.除水能の低下例では糖の吸収が亢進し,間質の肥厚・線維組織の増加が著明で,中皮細胞の脱落が見られるという6).我々も,D/P-Crが長期症例ほど高値となるかどうか検討したが,この説に一致する結果は得られなかった.これは,当科のデータが,外来受診時の排液を検査しただけで,腹腔内貯留時間,CAPD液のブドウ糖濃度を統一していなかったためと思われる.
 当科での除水能の低下による脱落症例の内2例は,腹膜炎を契機としていた.除水能の低下と腹膜炎との関連性については,因果関係を認めるとする報告7)も,認めないとする報告8)もある.当科では,脱落症例の2例以外にも,頻回に腹膜炎を起こした糖尿病の患者が2例いたが,この二人は,導入3年後に合併症で死亡するまで,除水能は低下しなかった.彼らの腹膜炎は,血液透析に移行した2例での重篤な腹膜炎とまったく異なり,排液の混濁が主症状で,抗生剤の腹腔内投与のみで数日で緩解する程度の軽いものであった.永井らは,除水能低下は腹膜炎罹患の有無ではなく罹患日数に依存すると述べている9).我々の経験でも,数日で緩解する軽度の腹膜炎は腹膜機能に影響しないように思われた.
 当科での除水能の低下による脱落症例のもう1例は,毎年100ー200ml/dayずつ除水能が低下し,9年目に血液透析に移行した症例であった.そこで,透析年数とともに除水能が低下していくものなのか検討するため,外来通院の時期のあった33例につき,1日あたりの平均除水量と尿量を集計した.入院中は,必要に応じCAPD液の交換回数が増減されていたり,点滴静注量が調整され,これらが除水量や尿量を修飾するため,入院中のデータは無視した.従って,図2に示した除水量と尿量は,既に死亡した症例や血液透析に移行した症例については,最終のものではなく,外来通院中のものである.
 導入直後はむしろ除水量が少ない例が多く見受けられたが,これらはまだ残腎機能があるためで,除水量と尿量を加えた値は,長期症例ほど低値を示し,長期にCAPDを行っている症例ほど除水能が低下していることが示された.
 しかし,6年以上CAPDを継続している5例について,各々での除水量の経時変化を集計してみると,長期化に伴い除水能が低下する傾向が見られたのは2例のみで,残り3例では除水量が不変であった.すなわち,全ての症例にいずれは血液透析に移行しなければならない時期が来るわけではないと思われた.

結語

当科で1985年より1994年3月までにCAPDの導入を行った43例の腎不全患者の予後を集計した.43例全例での5年累積生存率は66%であった.糖尿病群の5年累積生存率は57%,非糖尿病群の5年累積生存率は74%で,糖尿病群のほうが予後不良の傾向が見られたが,有意差は認めなかった.血液透析に移行した症例が3例あり,うち1例は毎年100ー200ml/dayずつ除水能が低下し,9年目に血液透析に移行した.6年目と5年目の2例は難治性の腹膜炎を契機として,その直前まで良好であった除水能が急激に低下し,血液透析に移行した.33例につき,除水量と尿量を集計したところ,長期症例ほど低値を示した.しかし,6年以上CAPDを継続している5例について,各々での除水量の経時変化を集計してみると,長期化に伴い除水能が低下する傾向が見られたのは2例のみで,残り3例では除水量が不変であった.

文献

1)木村明,内田健三,上谷恭一郎:CAPD療法の継続を断念した横隔膜交通症の1例.透析会誌1994;27:印刷中
2)前田憲志編:わが国の慢性透析療法の現況(1992年12月31日).日本透析療法学会統計調査委員会
3)岡田一義,矢内 充,久野勉,他:CAPDとその限界-我々の経験より-.透析会誌1990;23:1363-1365
4)金原幸司,頼岡徳在,小川貴彦,他:CAPD症例の離脱・死亡に関する検討.透析会誌1993;26:1606-1608
5)Cantaluppi A,Castelnovo C,Moriggi M,etal:Ultrafiltration failure in continuousambulatory peritoneal dialysis.Advances in Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis.1986:12-15,Perit Dial Bull,INC.
6)保坂真理子,久保和雄,加藤満利子,他:長期CAPD患者における除水能低下例の臨床的・病理学的検討.透析会誌22:633-637,1989.
7)Manuel MA:Failure of ultrafiltration in patients on CAPD.Perit Dial Bull 1983;3:38-40
8)Nolph KD:A survey of ultrafiltration in continuous ambulatory peritoneal dialysis.Perit Dial Bull 1984;4:137-142
9)永井司,栗山学,河田幸道,他:長期CAPDにおける腹膜機能の推移.透析会誌1992;25:337-341