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木村明(横浜市青葉区)業績集

泌尿器外科,6,139-141,1993.



CAPD長期化に伴う除水能低下についての検討

木村明,長瀬泰,内田健三,上谷恭一郎

東京都職員共済組合青山病院泌尿器科

key word:CAPD,腹膜機能,限外濾過

runnig title:CAPD長期化に伴う除水能の変化

Evaluation of peritoneal function in long-term CAPD patients

Akira Kimura, Yasushi Nagase, Kenzo Uchida, and Kyoichiro Kamiya

Metropolitan Aoyama Hospital
key word : CAPD,peritoneal function, ultrafiltration

 213 東京都渋谷区神宮前5-53-3
 03-3400-7211

要旨

 当科のCAPD症例20例につき,限外濾過能の低下について検討した.1日あたりの除水量は,導入後4年未満の群では平均1050ml,4年以上の群では平均540mlであり,長期症例では低下する傾向がみられた.クレアチニンの透析液/血漿比は,導入後4年未満の群では平均71%,4年以上の群では平均89%であった.5年目の1例は,難治性の腹膜炎を契機として,除水能が急激に低下し,dextrose濃度4.25%,2LのCAPD液を1日4回交換しても 200mlの除水しか得られず,血液透析に移行した.

はじめに

 CAPDが血液浄化療法の1つとしてわが国に普及して10年以上が経過し,安定した治療法として定着している.しかし,長期間にわたりCAPDを継続する上で,腹膜が透析膜としていつまで機能しうるか,つまり,長期化に伴う腹膜機能の低下といった点に注目せざるを得なくなった.当科では,1985年より1991年までに,30例の腎不全患者に対し,CAPDの導入を行ったが,最近,除水能の低下により血液透析に移行した1例を経験したので,今回,当科のCAPD症例につき,限外濾過能の低下について検討した.

対象・方法

 当科でCAPDを導入した30例のうち,導入直後に他院に転院した2名、外来通院が可能となる前に原疾患により死亡した7名、急性腎不全に対し短期間のみCAPDを施行した1名の計10名を除いた、20例につき集計した.症例の内訳は,男性13名、女性7名、年齢は19歳から82歳平均57歳で、原疾患は慢性腎炎9名、糖尿病性腎症7名、嚢胞腎2名、膀胱尿管逆流症2名である。導入後2年未満の症例が10例,2年以上4年未満が5例,4年以上が5例である.このうち、18名が現在も生存中であり、糖尿病性腎症の2名がCAPD導入後約2年で死亡している。
 これらの症例につき,腹膜機能として,溶質除去能および除水能を評価した.1.5%ないし2.5%ダイアニール1.5Lないし2Lを4時間程度貯溜した後の排液を採取し,クレアチニンの透析液/血漿比(D/P-Cr)を測定した.除水能は,1日あたりの平均除水量で評価した.
 また,重篤な腹膜炎を契機として除水能が低下し血液透析に移行した例につき,除水能の経時変化をみた.

結果

1日あたりの除水量

 図1は,20症例の1991年12月時点(死亡例はその入院の直前)での1日あたりの除水量を表示したもので,横軸にCAPD導入後の期間をとって,CAPD長期化に伴う除水能の変化を示した.1日あたりの除水量は,導入後4年未満の群では平均1050ml,4年以上の群では平均540mlであり,長期症例では低下する傾向がみられた.また,これに伴い,目的の除水量を得るため,長期症例ほど高濃度の透析液を使用する頻度が増える傾向がみられた.導入後1年未満の症例では除水量が少ない者もあるが,これは導入直後はまだ尿量が保たれているためである.
1日あたりの除水量尿量

 図2は,図1のグラフに尿量を上乗せしたものであるが,導入後間もない症例では尿量が充分にあり,従ってCAPDでの除水の必要がないのがわかる.
D/P-Cr

 図3は,20症例の1991年12月時点でのD/P-Crを表示したもので,導入後4年未満の群では平均71%,4年以上の群では平均89%であり,長期症例では高値となる傾向がみられた.
 次に,除水能の低下により血液透析に移行した1例を呈示する.
症例:54歳,男性.原疾患は慢性腎炎で1986年よりCAPDを開始.1.5%ダイアニール2L,1日4回の交換で,800ー1000mL程度の除水が得られ,導入後4年間は除水量が減少することなく,経過していた.
 1990年8月6日,腹膜炎を起こし入院.入院時には,40℃の発熱,強度の腹痛,さらには血圧低下や白血球・血小板の減少といった菌血症を疑わせる重篤な状態であった.起炎菌は,ペニシリン,セフェム,ニューキノロン,アミノグリコシド等に感受性のある黄色ぶどう球菌であったが,これらの薬剤を全身投与および腹腔内投与するも,下熱に3週間を要した.CAPD排液は,培養では7日目より菌が陰性化(ただし,検体採取時も化学療法は続行していた)したが,排液の混濁は9月上旬まで続き,抗生剤の腹腔内投与を続けた.
 8月末には,腹痛,発熱等の腹膜炎症状はなくなったが,この頃より除水量が300mLに減少し始めた.9月下旬には,下腿浮腫を認めるようになったため,CAPD液を高濃度の2.5%ダイアニール2Lに変更した.これにて600mL程度の除水が得られ,10月18日退院となった.
 しかし退院後も除水量の減少が続き,1991年3月には4.25%ダイアニール2Lを1日4回交換しても 200mLの除水しか得られなくなり,下腿浮腫が顕著となり,1991年7月血液透析に移行した.
 CAPDチューブは抜去せず,6ヶ月の腹膜休息の後,1992年2月より2.5%ダイアニール2L1日4回の交換を再開したが,1日200mLの除水しか得られず,血液透析から離脱できなかった.
除水量と尿量の経時変化

 図4に,1日あたりの除水量と尿量の経時変化を示した.

考察

 近年,CAPDの普及に伴い,長期CAPD患者における透析効率の低下はよく知られるようになった.Cantaluppiら1)はCAPD3年以上の症例の約11%に限外濾過低下が見られたと報告している.この限外濾過低下はCAPDの長期継続の成否を左右する重要な問題であるが,その機序の詳細は十分には明かにされていない.
 当科での除水能の低下による脱落症例は,腹膜炎を契機としていた.除水能の低下と腹膜炎との関連性については,因果関係を認めるとする報告2)も,認めないとする報告も3)ある.当科の症例のうち,図1で,*印を付けた4症例は,年間の平均腹膜炎罹患回数が2回以上の症例であるが,他の症例に比べ除水能は低下してはいない.永井らは,限外濾過低下は腹膜炎罹患の有無ではなく罹患日数に依存すると述べている4).我々の経験でも,排液の混濁が主症状で,抗生剤の腹腔内投与のみで数日で緩解する軽度の腹膜炎は腹膜機能に影響しないように思われた.
 通常,腹膜機能は除水能と溶質除去能の2面で評価され,一般に,長期化に伴う腹膜機能の低下は除水能の減退であり,溶質除去能は逆に亢進するとされている5).これは,腹膜が,中皮細胞の障害によって,”hyper- permeable”な状態,つまり膜透過性が亢進した状態となるためとする説がある.除水能の低下例では糖の吸収が亢進し,間質の肥厚・線維組織の増加が著明で,中皮細胞の脱落が見られるという6).当科の集計でも,D/P-Crが長期症例ほど高値となる傾向がみられたことは,この説に一致するものであった.

文献

1)Cantaluppi A,Castelnovo C,Moriggi M,etal:Ultrafiltration failure in continuousambulatory peritoneal dialysis.Advances in Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:12-15,Perit Dial Bull,INC,1986.
2)Manuel MA:Failure of ultrafiltration in patients on CAPD.Perit Dial Bull 3:38-40,1983.
3)Nolph KD:A survey of ultrafiltration in continuous ambulatory peritoneal dialysis.Perit Dial Bull 4:137-142,1984.
4)永井司,栗山学,河田幸道,他:長期CAPDにおける腹膜機能の推移.透析会誌25:337- 341,1992.
5)大平整爾,阿部憲司,長山誠,他:CAPD症例の腹膜機能の推移.透析会誌23:279-284, 1990.
6)保坂真理子,久保和雄,加藤満利子,他:長期CAPD患者における除水能低下例の臨床的・病理学的検討.透析会誌22:633-637,1989.