link to PSA top page

和文論文43



人間ドック前立腺検診における超音波断層法の役割
青山病院 泌尿器科
木村 明、内田健三、上谷恭一郎

はじめに

 当院の人間ドックでは、毎週40ー50人の男性患者が前立腺の触診検査を受けている。そしてその内異常と認められた4ー5名が、泌尿器科外来に於て精査をうける。当科での2次検診は平成1年までは、腫瘍マーカーの血液検査と尿道造影が行われていたが、平成2年9月に経直腸的超音波断層装置が導入されてからは、2次検診に超音波検査を用いるようになった。前立腺癌は、70才以上に多くみられる疾患のため、都の現役職員がほとんどの当院のドックでは、平成2年以降、発見例はないが、前立腺肥大症は多く発見されている。
 超音波検査を基にした前立腺体積(重量)の計測は,前立腺肥大症の治療法選択の上で重要である。我々はこの装置で得られた前立腺横断面から前立腺重量を計算する場合には回転楕円体近似法(1断面回転楕円体近似法)を使用している。
 これは左右径Dを回転軸として巾が前後径Tの楕円を回転させたときの回転楕円体の体積Vを求めるもので、式は
V=πDT2/6
である。
 前立腺重量の計測法の中で最も正確な方法は,5mm間隔で撮影された連続断層像の前立腺面積をすべて計測し,これに厚みの5mmを乗じて加算するもの(以下,積分法と呼ぶ)で,誤差は5%以下である.この方法による前立腺重量の計測のためには,プローブを5mm間隔で引き抜きながら連続断層像を撮影しなければならないので,検査も煩雑であり、計測にも時間を要する。
 我々が日頃使用している回転楕円体近似法が,積分法とどの程度一致するかを,検討した.

対象

経直腸的超音波断層法を受けた患者のうち,前立腺癌(未治療)50例,前立腺肥大症50例,正常50例を対象とした.

結果

 図1から図3に,前立腺癌50例,前立腺肥大症50例,正常50例における,積分法と,回転楕円体近似法による前立腺体積の計算値の関係をプロットした.
 図1は,前立腺癌50例での2方法による前立腺体積の計算値の関係をプロットしたものである.前立腺体積の平均値は,回転楕円体近似法では24.8cm3,積分法では28.2cm3であった.前立腺肥大症50例(図2)での前立腺体積の平均値は,回転楕円体近似法では33.4cm3,積分法では41.7cm3であり,正常50例(図3)での前立腺体積の平均値は,回転楕円体近似法では11.1cm3,積分法では16.4cm3であった.
 すなわち,左右径を回転軸とした回転楕円体近似法では,前立腺体積が過小評価される傾向があり,前立腺癌では約10%,前立腺肥大症では約20%,正常例では約30%過小評価されることが判明した.

考察

  癌,肥大症,正常例各1例における前立腺と,各々の最大横断像の左右径を回転軸とした回転楕円体の輪郭の三次元像を,図4に示す.左右径を回転軸とした回転楕円体で近似すると,上下径を前後径で代用することになるため,平たい形状の正常例ではかなり過小評価してしまうことがわかる.肥大症や癌は輪郭が球形に近いため,上下径を前後径で代用できることがわかる.
人間ドックの2次検診としての超音波検査は、前立腺肥大症の程度の評価および治療法の選択を目的としているので、簡便な前立腺重量予測式である回転楕円体近似法で充分であると思われる。