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和文論文31



腎の三次元動画表示の試み  

木村明,阿曽佳郎

東京大学医学部泌尿器科学教室

平沢潔

東京逓信病院泌尿器科

周藤安造

東芝医用機器事業部

要旨

 我々は,コンピューターグラフィックスによる,腎細胞癌症例での、X線CT画像を基にした腎、肋骨、体表の三次元表示について既に報告した.腎と肋骨の位置関係が明瞭に示され、腎摘出術の到達法決定に役立つ可能性が示された.
 今回は,新たに開発された診断用画像処理装置を用いて,左腎細胞癌症例で腎、肋骨、体表の三次元動画表示行った.まず,視点を3度ずつ変えた画像を44枚作成した.それらを診断用画像処理装置TDS-02Aに転送した.TDS-02Aは投影像を88枚までメモリー内に保持することが可能であり,それらを瞬時に次々とCRT上に表示することにより,アニメーションと同様に動画表示できる.
 動画表示では,視点が連続的に変化することにより,腎と肋骨との距離のような静止画ではつかみにくい関係も捉え易くなった.多数の臓器を表示する場合には,動画表示を行ったほうが臓器同士の位置関係が把握し易くなるであろう.

 我々は,ミニコンVAX11/750を用いたコンピューターグラフィックスによる,馬蹄鉄腎症例と腎細胞癌症例での、X線CT画像を基にした腎、肋骨、体表の三次元表示について既に報告した1).馬蹄鉄腎症例では、両腎の融合の程度や腎門部が前方を向き回転異常を伴っていることが明瞭に示された.また,腎細胞癌症例では、腎と肋骨の位置関係が明瞭に示され、腎摘出術の到達法決定に役立つ可能性が示された.
 ここでは,新たに開発された診断用画像処理装置を用いることにより動画表示が可能になったことを報告する.

対象及び方法

 左腎細胞癌の1例で、術前のX線CT画像を光ディスクに記録した。これを介して画像を当院画像センターのミニコンVAX11/750に転送し、医師がCRT上で各スライスごと(1cm間隔)に、腎、肋骨、体表をトレースすることにより、輪郭を入力した。表示法は、体表については、一定間隔で記憶した輪郭のポイントを上下左右に結んでメッシュ状に表示するワイヤフレーム法を、腎と肋骨については、このメッシュが構成する面と光源との角度に応じた輝度でこの面を塗りつぶすサーフェース法を用いた(図1)。視点を3度ずつ変えた画像を44枚作成した.これは,視点を患者の左真横に置いた時を0度とし,これから前方に69度(23枚),後方に60度(20枚)の範囲の投影像である.それらを東芝製診断用画像処理装置TDS-02Aに転送した.TDS-02Aは投影像を88枚までメモリー内に保持することが可能であり,それらを瞬時に次々とCRT上に表示することにより,アニメーションと同様に動画表示できる.

結果

 図2に,動画表示を行った症例での,視点を15゜づつ変えた投影像を示した.実際にはまず視点を3度ずつ変えた画像を44枚作成する.これを診断用画像処理装置TDS-02Aのメモリー内に,視点が患者前方から後方に変化しながらの順と,視点が患者後方から前方に変化しながらの順に,合計88枚の投影像を並べるようにする.それらを瞬時に次々とCRT上に表示することにより,アニメーションと同様の原理で,視点が患者前方から後方に,続いて患者後方から前方にと,前方に69度,後方に60度の範囲で往復運動する様子が動画表示できる.

考察

 最近コンピューターグラフィックスを用いた臓器の三次元表示の試みが、形成外科、脳外科領域などで行われている2)。我々は、後述のごとく手術到達法が種々あり各症例に応じて到達法を選択しなければならない腎を対象として三次元表示を行えば、臨床的に意義のある研究ができる可能性を考え、1986年6月、研究を開始した。
 今回動画表示を行った症例とは別の右腎細胞癌症例での腎のみの三次元表示を図3に、手術により実際に摘出した腎の標本写真を図4に示す。今回動画表示を行った症例も含めて,総て三次元表示は1cm間隔で撮影されたCTから構成されているが、実際に充分近い像が得られていることが,この比較で確認できる。
 馬蹄鉄腎症例1例と腎細胞癌症例3例での、X線CT画像を基にした腎、肋骨、体表の三次元表示(静止画)を本誌に以前提示した1).その際,馬蹄鉄腎症例では、両腎の融合の程度や腎門部が前方を向き回転異常を伴っていることが明瞭に示された.しかし,診断上有用な情報はすべてCT像に含まれている.この表示が特に診断上有用であるとは言えないが,患者及び家族への疾患の説明には使用できる.腎細胞癌症例では、腎と肋骨の位置関係が明瞭に示され、腎摘出術の到達法決定に役立つ可能性を報告した.
 従来,腎摘出術の到達法決定のためには,術者が,静脈性腎盂撮影,CT,動脈造影などの画像をもとに,腎と諸臓器との関係の三次元像を頭の中で組み立てているわけである.これは多くの経験により修得できるものである.手術計画を立てる上で,視覚に直接訴える三次元表示画像が得られれば,到達法を選択するための一助になると思われる.
 到達法決定のみならず手術全体のシミュレーションのためには,動静脈も同時に表示できることが望ましいが,表示する臓器数が増えると一方向からの静止画では臓器同士の位置関係がつかみにくくなり,動画表示が必要になると思われる.
 動画表示では,視点が連続的に変化することにより,腎と肋骨との距離のような静止画ではつかみにくい関係も捉え易くなった.三次元表示と言ってもCRT上に表示する以上は二次元にすぎない.従って,多数の臓器を表示する場合には,動画表示を行ったほうが臓器同士の位置関係が把握し易くなるであろう.
 今回使用した東芝製診断用画像処理装置TDS-02Aは,頭骨のような境界鮮明で自動輪郭抽出が可能な臓器では,CT撮影後自動的に三次元画像が作成され,CRT上にアニメーションが現れる.従って,表示したい臓器の輪郭の座標さえはっきりすれば,その後の表示技術はすでにほぼ完成していると言える.
 医用の三次元表示技術で残された最大の問題は,表示したい臓器の輪郭の三次元座標をいかにコンピューターに認識させるかである.2方向から撮影した血管造影像があれば,そこに写っている血管の三次元座標は原理的には分かるはずである.しかし,血管の三次元表示はまだ試行錯誤の段階で,医師の監視なく完全にコンピューターだけで血管の輪郭の認識から,三次元表示までできるところには行っていない.血管の三次元表示の研究は,頭部等で盛んに行われている3).その研究により,コンピューターにも解剖学を学習させなければならないということが明かとなった.医師が血管造影の正面像と側面像を対応できるのは,内頚動脈は前大脳動脈と中大脳動脈に分岐するといった解剖学の知識があるからである.
 手術シミュレーションのための三次元表示には,血管の表示が重要であるが,そのために克服しなければならない問題は大きい.膨大な知識を有し,それを基に判断するコンピューターの開発は,医療関係者だけでは不可能である.今までは工学者が開発したソフトを医療にも応用してみるという段階であったコンピューターグラフィックスの研究も,今後は医師が工学者に何が重要かを示していく時期に来ている.

文献

1) 平沢潔,木村明,樋口照男,黄徳文,菊池きよみ,周藤安造:コンピューターグラフィックスによる腎,肋骨,体表の三次元表示.腎癌の手術計画への応用.臨泌,42:795-798,1988.  
2) 鳥脇純一郎:最近の医用画像三次元表示の基本手法.医用電子と生体工学,24:293-303,1986.
3) 桑原道義:総論ー医用画像処理の歴史と展望.BME,3 (8):2-10,1989.

Animation of ThreeーDimensional Display of Kidney

Akira Kimura*,Yoshio Aso*,
Kiyoshi Hirasawa**,Yasuzo Suto***

*University of Tokyo,**Tokyo Teisin Hospital,***Toshiba
The usefulness of three-dimensional display method applied to the cases of renal carcinoma was already reported. Kidney and ribs were displayed by surface method and body surface was displayed by wire frame method. The display was useful for the simulation of nephrectomy. The three-dimensional display seemed useful to choose an appropriate incision with minimum invasion and maximum exposure. Furthermore, animation display makes therecognition of the relationship between several organs such as the distance between the kidney and ribs easier.