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和文論文28



レーザーによる経尿道的尿管砕石術.

東京大学医学部泌尿器科学教室

木村明,東原英二,阿曾佳郎

 1980年に体外衝撃波腎尿管砕石器(extra-corporeal shock wave lithotriper,ESWL)1)と硬性尿管鏡を用いた経尿道的尿管砕石術(transurethral ureterolithotripsy,TUL)2)が発表されてから,尿路結石の治療として従来行われてきた切石術はほとんど施行されなくなった.
 特にESWLは,エネルギー源を直接結石に接触させることなく,体外で発生させたエネルギーが体内をす通りして結石を破砕するという,画期的なアイデアであった.
 しかしESWLも,ある程度の大きさまでの腎結石では治療成績が非常によいが,尿管結石では成績が落ち(位置合わせに超音波断層法を使用するタイプの装置では尿管結石を描出できないため破砕が不可能),大き過ぎる腎結石を破砕すると尿管内にstone streetを形成し症状や腎機能をかえって悪化させることもあり,ESWLは万能ではないことが明かとなり,むしろESWLの普及にともない尿管鏡等のendourologicalな手法が要求される頻度が多くなっている.

I レーザーによる結石破砕の利点

 TULにおける結石破砕のためのエネルギー源として従来,超音波砕石器と電気水圧砕石器(EHL)が使用されている3).超音波砕石器は硬性の振動子によりエネルギーを結石に伝達するため硬性の尿管鏡を用いなければならない.これに対しEHLはエネルギーの伝達は電気コードによるので軟性の尿管ファイバースコープ下で可能である.硬性の尿管鏡を上部尿管まで挿入すると尿管口が内側に牽引されて尿管口狭窄を生じることがあり,また操作中腎盂に押し戻された結石の治療は不可能であるため,著者らは結石が上部尿管にある場合には軟性の尿管ファイバースコープを用いるべきだと考えている4).
 一方,強力超音波は軟部組織への障害性が低いので振動子を誤って尿管へ当てても短時間であれば障害を起こさないが,電気スパークにより生じる水圧は結石にも軟部組織にも同様に作用するのでプローブを尿管へ当てて放電すると尿管は簡単に穿孔してしまう.
Watsonは超音波砕石機にかわるflexibleな装置としてレーザーに注目し,熱エネルギーに換算した時最小で,しかも内視鏡操作に適したレーザー(fiberを伝わる)を精力的に求め続け,ついにパルスダイレーザーによる結石破砕装置を実用化するに至った5).その装置はすでにアメリカではCandela社により商品化されており,日本でも著者らの教室などで治験が終了し6)厚生省に申請中であり,近々承認されるものと思われる.波長504nm,パルス巾1μsecのレーザーを,200Micronの太さのfiberで,10Hz(毎秒10発)の繰り返し速度で,30-60mJ/pulseのパワーで照射する装置である.
Coptcoatらの最近の報告7)によれば107例の尿管結石患者に9.5Fの硬性尿管鏡下に行い,成功率84%であった.失敗例は石が腎盂に逃げたもので,経皮的腎砕石術もしくはESWLで治療した.破砕に要したパルス数は100発から1200発,平均500発で,合併症は尿管鏡による尿管口の狭窄を2%に認めただけでレーザーに起因したものはなかった.
 以上のようにWatsonらが開発したパルスダイレーザーによる結石破砕装置は,軟部組織への障害性が低くかつ軟性の尿管ファイバースコープ下での破砕も可能であり,超音波砕石器とEHLの利点を合わせ持った理想的な破砕装置と言える.
 ここではレーザー砕石の研究をレビューするとともに,より理想的な装置開発の可能性について検討したい.

II レーザー破砕研究のレビュー

これまでに結石破砕実験が行われたレーザーを,気体レーザーか固体レーザーか色素レーザーか,さらに連続波かパルス波かで分類したのが表1である.このうち結石破砕装置として最初に実用化されたのはパルスダイレーザーである.この項ではそれ以外の,実用化にまで到らなかったレーザーについてレビューする.

連続波

棚橋ら8)は,CO2レーザーの連続波で結石に穴を開けた.16 Wattで毎秒2mmの速度で穿孔が進んだ.CO2レーザーはfiberを通らないので,棚橋らはYAGレーザーの連続波をfiberを通して膀胱結石に当てた.出力は70 Wattで,熱による組織障害を防ぐため還流を要した.2 例の患者に行い,それぞれ3500Jと14700Jを要した.
 Penselら9)はYAGレーザーの連続波を使用し1cmの結石を空気中で50Wで20分(60000J)で割ることができた.fiberを結石に近付ければ効率が良くなるがfiberが壊れやすくなった.
 Watson10)はアルゴンレーザーの連続波を fiberを介して結石に照射したが,結石を気化させるのにYAGレーザーと同等のエネルギーを要し,500J照射したあとで手で持とうとすると非常に熱くなっていた.

パルス波

ルビーレーザー

 Mulvaneyら11)は1968年にルビーレーザーのパルス波により破砕を試みた.パルスあたりのエネルギーは50ー300Jと非常に高かった.彼らはパルス波が結石を気化させるのでなく,破砕することを示した.
Fair12)は結石を石英板で作った箱の中に入れ,20 nanosecondのパルス巾のQスイッチルビーレーザー(1.8J/pulse)を当てた.パルスレーザーによって生じるプラズマが箱の中に閉じ込められて衝撃波が生じ,結石が破砕された.

YAGレーザー(Qスイッチ)

 Penselら9)はQスイッチYAGレーザー(5J/ pulse以下)を一発だけ,fiberを介さず直接結石に焦点を合わせて当てた.パルス波では結石は気化せず,破砕された.
Watson10)は30分前に殺した豚の腎臓に蓚酸カルシウム結石を入れ,周波数を倍にしたQスイッチYAGレーザー(532nmの波長)を,パルス巾15 nanosecond,1パルスあたり600mJまで,繰り返し速度は10Hzまでで当てた.結石は3分で壊れ,更に20分腎盂に当てた.腎盂には肉眼上変化はなかった.この結果は臨床応用への期待を抱かせるものであり,彼はこのレーザーをfiberで導光できるかを検討したが,fiberの遠位端からレーザーが出てこず,パワーを上げるとfiberの近位端が粉々になった.QスイッチYAGレーザーのパルス巾は15nano- secondであるので,パワーが100mJのレーザーを600micron径のfiberに通そうとするとパワー密度は2300Megawatt/cm2となり,まったくきずのないガラスの域値に近く,ごく僅かのきずでfiberが壊れることになる.

100 microsecond YAGレーザー

Qスイッチレーザーは組織を損傷せずに結石を破砕するが,fiberを通せないことが判明した後,Watsonはこのレーザーを試みた10).パルス巾100 microsecond,1パルスあたり1Jまで,繰り返し速度は30Hzまでで,金属に穴を開ける工業用レーザーである.600micron径のfiberを通して700mJ/pulseで結石に当てた.水中でも空気中でも効果は弱かった.空気中ではカルシウム結石にこげめをつける作用があったので,まず空気中で当ててこげめをつけ,水中でfiberを介して当てるということを繰り返すことにより,結石を壊すことにし,摘出した豚の尿管内に蓚酸カルシウム結石を入れ,内視鏡下で結石を壊したが,この際尿管は26℃上がった.
 次に,犬を全麻下に膀胱高位切開し,層状構造をした燐酸カルシウム結石を1.5mmの厚さにしたものを膀胱の後壁の2箇所に置き,それぞれ20秒と40秒照射した.10日後,再開腹し,膀胱側壁に直接レーザーを当てて,3時間後に殺した.層状構造をした燐酸カルシウム結石を1.5mmの厚さにしたものを膀胱に置き,20秒照射した部分には,lamina propriaに及ぶ浮腫を生じており,40秒照射した部分には筋層に及ぶcraterがあった.殺す3時間前にレーザーを照射した膀胱側壁は,1秒ではlamina propria迄,4秒で筋層迄,13秒で全層がおかされており,このレーザーは結石を破砕できるエネルギーでは,組織を損傷することが示された.

エキシマレーザー

 エキシマとは,励起状態においてのみ存在する分子のことで,この分子が解離する時に紫外パルス光を放出するのを利用したレーザーがエキシマレーザーで,発振波長は封入ガスにより異なり,パルス巾は10ないし15 nanometerと短い.
 Watson10)はフッ化クリプトンガスによるエキシマレーザー(波長249nm)を2x0.5mmの spotで結石表面に直接当てる実験を行った.空気中で燐酸マグネシウムアンモニウム結石に15mJ/pulseで50000発当てても111.5mgしか結石の重さが減らず,水中で50000発当てても25.6mgしか結石の重さが減らなかった.塩化クセノンガス(波長308nm)やフッ化クセノンガスによるエキシマレーザー(波長351nm)でも,同程度の効果しか得られなかった.
次に彼はフッ化クセノンガスによるエキシマレーザーを1mmの石英fiberを通して結石に当ててみた.エネルギーの90%が石英fiberを通過し,30mJのパルスが伝達できた.燐酸マグネシウムアンモニウム結石に水中で600発当てただけで,20mgも結石の重さが減り,破砕の効率は結石表面に直接当てた場合よりはるかに良かったが,実験途中でfiberが壊れてしまい,彼はエキシマレーザーはfiberを通せない,従って内視鏡操作に適さないとの結論に達した.

III パルスダイレーザー

 組織障害を起こさない程度のエネルギーで結石を破砕するには,結石に吸収され易く,生体に吸収され難い波長のレーザーが好ましい.Watsonは吸光計を用いて種々の波長での結石の吸光度を測定した.1000nm付近の波長の光(赤外線)は結石にほとんど吸収されず,より短波長になるほど良く吸収されることを確認した彼はパルスダイレーザーの実験を開始した.
このレーザーはフラッシュランプで色素を励起することによりパルス波のレーザーを発生させるものなので,色素を交換することにより種々の波長のレーザーが出せ,またフラッシュランプの放電時間を変化させることによりパルス巾も1μsecから300μsecまで可変である.パルス巾が1μsec以上とQスイッチ YAGレーザーの15nanosecondよりはるかに長いので,非常に細い石英fiberを通すことができる.
パルスダイレーザーをどの条件(波長,パルス巾,fiberの太さ)で使うのがいいかの基礎実験として,波長は,445nm,504nm,577 nmとで,パルス巾は,1μsec,10μsec,120 μsec, 300μsecとで,fiberの太さは,200Micron,400Micron,600Micron,1000Micronとで比較した13).結石を5cmの深さの水中に置き,レーザーをあてた.出力は低値から次第に上げ,破砕の起きる域値の出力を求めた.波長は短いほど,パルス巾は短いほど,fiberは細いほど,少ないエネルギーで破砕できた.
この基礎実験の結果,パルス巾は1μsecが,fiberの太さは200Micronが採用されることになったが,波長は445nmではなく504nmが採用された.その理由をWatsonは445nmの波長の光は504nmの波長の光よりヘモグロビンに吸収されやすく,従って組織障害性が高いことが考えられるためとしている.
 豚の腎盂を切開し上部尿管に結石を詰め,経尿道的に尿管鏡を挿入し波長504nm,パルス巾1μsecのパルスダイレーザーによる破砕実験を行い,上部尿管の病変を検討した結果,レーザーはEHLより害が少ないことが解った14).下部尿管の病変は上部尿管より強く,尿管鏡挿入による合併症が最も大きいことも判明した.レーザーのfiberはEHLより細く,その分尿管鏡も細くて良く,尿管への侵襲が少なくできると考えられた.
 パルスダイレーザーによって結石が破砕される機序としては,パルスレーザーによって結石のごく一部だけが暖められて膨張し,その圧力によって結石が壊れるとか,結石内に生じた蒸気によって破砕される等の可能性もなくはないが,結石表面でプラズマが発生するためと考えられている.プラズマとは結石の色素がレーザーエネルギーを吸収して気化する時にできる局所的なイオンと電子の集合である.パルス巾は短いほど,fiberは細いほど,結石は良く壊れたが,これはパワー (Watt/cm2)が高いほど良いことを示している.パワー(Watt/cm2)が高いほど,プラズマも発生しやすい.プラズマが生じると,元々のレーザーの波長とは異なる波長の光が放出されることが知られている.Candela社の Furumotoは結石に504nmのレーザーを当てた時,504nm以外の波長の光が放出されていることを証明した.プラズマは水中では膨張を制限されるため,衝撃波を発生させることとなる.

VI 今後の課題

 レーザー破砕の研究をレビューしてみると,Watson個人の執念がいかにこの分野の発展に寄与しているかがわかる.彼は利用可能なレーザーはことごとくチャレンジしたようであり,その結果選択された波長504nm,パルス巾1μsecのパルスダイレーザーは最良のものとの印象を抱いてしまう.しかし彼の論文にも論理の飛躍がいくつか見うけられる.
 第1点は,波長が445nmのほうが破砕効果が良いのに,445nmの波長の光は504nmの波長の光よりヘモグロビンに吸収されやすいとの理由だけで実際に組織障害性の動物実験をすることなく504nmを採用したことである.
 第2点は,パルス巾について1μsec(=1000 nanosecond)と15 nanosecondとの間のものについては検討されていないことである.石英fiberを通せる範囲でしかも破砕効率がより良くなるようなパルス巾についてももっと検討されて良いと思われる.
第3点は,レーザー自体に関してはかなり詳しく検討してあるが,導光用のfiberについては,市売の石英fiber以外にはあまり検討してないことである.石英fiberを通せないという理由だけでエキシマレーザーを断念するのではなく,より強固なfiberを探す努力もすべきである.
 我々の教室でも,軟性の尿管ファイバースコープを用いたTULに適したより良い破砕器を追求しており,レーザー破砕器についても上記のような改良の可能性につき検討を開始しており,その成果についてはいずれ報告したい.

文献

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