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和文論文21



コンピューターグラフィックスによる腎の三次元表示

東芝中央病院泌尿器科

木村明

1、はじめに

 最近コンピューターグラフィックスを用いた臓器の三次元表示の試みが、形成外科、脳外科領域などで行われている。東芝中央病院内に61年にコンピューターグラフィックスを含めたデジタル医用画像の処理を研究するための画像センターができ、当院の常勤医師にも適切な研究テーマがあれば提案するよう機会が与えられた。我は、後述のごとく手術到達法が種々あり各症例に応じて到達法を選択しなければならない腎を対象として三次元表示を行えば、臨床的に意義のある研究ができるのではないかと考え、腎の三次元表示を試みることを提案した。同センターのスタッフの方より、センター稼働開始後早期に研究テーマを受け入れる旨の返事をいただき、スタッフの協力のもとに61年6月、研究を開始した。

2、対象及び方法

 馬蹄鉄腎症例1例、腎細胞癌症例3例で、術前のX線CT画像を光ディスクに記録した。これを介して画像を画像センターのミニコンVAX11/750(図1)に転送し、医師がCRT上で各スライスごと(1cm間隔)に、腎、肋骨、体表をトレースすることにより、輪郭を入力した。表示は、パッチ法を用いた。パッチ法は興味対象の表面によって、三次元再構成する方式である。パッチ法による三次元画像生成・表示の手順は図2に示すようになる。すなわち、(1)エッジ抽出:スライス毎に、興味対象の境界を半自動/マニュアルで抽出する。表示方式に応じて、等間隔または等距離でサンプリングする。(2)パッチ面構成:スライス間毎にサンプリング点列を結び付け、三角形および四角形のパッチを生成する。(3)画像生成:ワイヤーフレーム表示およびスムーズ・シェーディング(サーフェース)表示画像を生成、表示する。’

3、結果

 馬蹄鉄腎症例での腎と体表の三次元像を図3に示す。馬蹄鉄腎は、通常左右別々にあるべき腎が下方で融合しhorse-shoeに似た形態を示す先天奇形で、腎の回転異常を伴うことが多いため尿流が妨げられ腎を離断する手術が必要となる。本例では、両腎の融合の程度や腎門部が前方を向いており回転異常を伴っていることが明瞭に示された。
 右腎細胞癌症例での腎と肋骨と体表の三次元像を図4に示す。本例は胆嚢の超音波検査時に偶然発見された早期腎癌である。本例では、後方から眺めた場合、肋骨が妨げとならず、肋骨切除を伴わない通常の腰部斜切開でも充分腎が露出しうることが表示されている。
 本症例での腎のみの三次元表示を図5に、手術により実際に摘出した腎の標本写真を図6に示す。今回提示した症例は総て、本例も含めて、1cm間隔で撮影されたCTから構成されているが、実際に充分近い像が得られている。
 左腎細胞癌症例での腎と肋骨と体表の三次元像を図7に示す。本例は人間ドックの超音波検査で発見された早期腎癌である。本例では、側方から眺めた場合、第11肋骨が妨げになるが、これを切除すれば充分に腎が露出することが図8により確認できる。
 進行した左腎細胞癌症例での腎と肋骨と体表の三次元像を図9に示す。本例では、第11肋骨や第12肋骨の切除では腎上極を露出できず、より上方の肋骨の切除すなわち開胸術が必要なことが示された。

4、考察

 馬蹄鉄腎症例の表示の結果、三次元表示すると、空間的な広がりを把握しやすくなるものの、診断のための情報はすべて基になったCT像に含まれており、この表示が診断を容易にするとは思えず、患者及び家族への疾患の説明程度にしか役立たないとの印象をえた。ただ、本例を62年4月にME学会’で提示したところ、素人にわかりやすいという理由らしいが、医師用の月刊新聞メディカルトリビューン’、これに引き続き読売新聞が掲載してくれたのには私もいささか驚いた。
 逆に、記者は興味を示してくれなかったが、腎細胞癌症例での腎と肋骨と体表の同時表示は、腎上極と肋骨との位置関係を任意の方向から眺めることができ、特に側方から眺めた場合、肋骨が妨げになるかどうか、どの肋骨を切除すればよいかといったことが表示しえ、腎摘出術の到達法決定に役立つのではないかと思われた。
 腎は後腹膜腔に位置しているため腹部外科でよく用いられる正中切開では腹腔内臓器を剥離した後でなければ腎を露出できず、また胸郭に保護されているため側方から攻めるとしても肋骨が邪魔になることが少なくない。従って、腎の到達法には前方、側方、後方の三種類があり、どれを採用するかは個々の症例での腎の高さや肋骨の長さ等に応じて決めることとなる。
 現在は腎盂撮影やアンギオ等の前後方向への投影像のみよりこの判断を行っているわけであるが、これは術者が投影像から三次元像を頭の中で組み立てているわけであり、これは経験(不適切な到達法による困難な手術経験)によって収得できる技とでもいうべきで、術者間で到達法に関し意見が分かれた場合、最も説得力を持つのは不適切な到達法による合併症の経験の豊富な医師の意見である。従って、腎上極と肋骨との位置関係を任意の方向から眺めることができる方法が確立されれば臨床に役立つと思われる。この点に関し私以外の泌尿器科医がどう評価してくれるか、本年10月の泌尿器科学会東部連合総会で報告し、反応を見たいと考えている。

参考文献

1)周藤安造.画像診断における三次元表示ー技術の現状と今後の課題ー.メディカル レビュー 25,43ー46,1985
2)木村明,周藤安造.CTをもとにした腎の三次元表示.医用電子と生体工学 25巻 特別号,428,1987
3)木村明.腎の三次元表示の試み.Medical Tribune 6月号,33,1987