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木村明:性病危惧を訴える患者への検査と説明.
泌尿器科-専門医にきく最新の臨床,p235-236,
中外医学社,東京,2008.

性病危惧を訴える患者への検査と説明


性病危惧を訴えて泌尿器科を受診する患者には、感染の機会があり、その後何らかの症状がある場合と、コマーシャルセックスワーカーなどとの交渉の後、無症状だが性病を心配している場合とがある。
排尿痛・尿道からの排膿を訴える患者では、淋菌性尿道炎・非淋菌性尿道炎を疑い、検査を進める。
淋菌性尿道炎では、感染機会からほぼ2-7日の潜伏期間の後、尿道口より濃い黄色の膿の排出、尿道口の発赤を認め、排尿痛がある。診断は尿道分泌物または初尿沈査中の白血球の証明と、淋菌の検出による。淋菌の検出法には分離培養同定法・PCR法などがある。分離培養同定法では薬剤感受性試験を行う事ができる利点があるが、淋菌は温度変化、乾燥などに弱いため、検体は採取後速やかに接種する必要がある。
非淋菌性尿道炎の原因の多くはクラミジアであるが、最近、非淋菌性非クラミジア尿道炎症例も増加しつつある。非淋菌性非クラミジア尿道炎の原因はまだ充分に解明されていないが、マイコプラズマ属の細菌の関与が指摘されている。
クラミジア性尿道炎は、潜伏期間が1-3週間と淋菌性尿道炎に比べて長い。症状は軽い排尿痛や尿道部不快感などであり、尿道分泌物も漿液性で、量も淋菌性尿道炎に比べて少ない。診断は初尿またはスワブ検体にてクラミジアを検出する。クラミジアの検出の方法には、核酸増殖法(PCR法、LCR法)、抗原検査法などがある。核酸増殖法は、感度・特異度とも高いが、増幅阻害物質による偽陰性に注意が必要である。抗原検査法は感度・特異度とも核酸増殖法に劣る。抗体検査は、抗原や核酸が検出できない場合を除いて、診断的意義は少ない。したがって、クラミジア性尿道炎を疑う場合は、行うべきではない。
性感染症の機会があり、陰部の皮疹・痛み・かゆみを訴える患者では、梅毒・性器ヘルペス・尖圭コンジローマ・ケジラミなどが考えられる。
梅毒は、3週間の潜伏期を経て、亀頭・冠状溝に、無痛性の大豆大の硬結を生じる。硬結は自壊して硬性下疳となるが、痛みは伴わない。診断は梅毒血清反応による。STSとTPHAがともに陽性となる。
性器ヘルペスの初感染では、亀頭・陰茎に痛みを伴う小水疱が多発する。水疱は速やかにびらんとなる。診断には、水疱・びらん部で、ウイルス性巨細胞を証明するギムザ染色法と、ウイルス抗原検出法がある。
尖圭コンジローマは、亀頭・冠状溝・包皮に好発する疣贅で、その原因微生物はヒト乳頭腫ウイルス(HPV)である。潜伏期間は3週間から8ヶ月である。

ケジラミ(図)は吸血性昆虫のケジラミが陰毛に寄生することにより発症し、陰部の掻痒を起こす。性行為によって感染し、掻痒を自覚するのは感染後1-2ヶ月が多い。卵から成虫まで13-16日、成虫は約22日の寿命で雌は約40個の卵を産む。
診断は、陰毛に産みつけられた卵(図)、卵の抜け殻を陰毛ごと切除し、検鏡する。

無症状だが性病を心配している場合には、健診に相当するので、問診・視診以上の検査は、保険診療ではなく、私費診療になる事をまず説明する。
特にHIV感染症を心配している場合は、保健所を訪れるよう薦めるのも良い選択肢である。保健所では無料・匿名で検査を行っている。保健所での検査を勧めた際には、HIV抗体が陽性になるのは、感染の機会から3-4週間後である事を告げ、それ以前の検査では、感染していても陰性になる可能性を説明する。
無症状の患者がクラミジアを心配して受診する理由には、性感染症の機会があり心配なので感染の有無を検査するため、性的パートナーがクラミジア性子宮頚管炎との診断を受けたため、(妊婦)検診などでクラミジアが陽性と診断されたため、などがある。
クラミジアに感染しても症状が出ないことも多い。厚労省の「性感染症の効果的な蔓延防止に関する」班研究1)は、尿を用いてのPCR法によるクラミジアの検出により、種々の対象におけるクラミジアの蔓延度を調査している。6000人を超える無症候の高校生を対象にした調査では、男子で7%、女子で13%に陽性者が発見されている。
したがって、無症状の場合にも、初尿によるクラミジアの検出を行う必要がある。


文献
1) 性感染症の効果的な蔓延防止に関する研究 平成15年~平成17年度 総合研究報告書.主任研究者 小野寺昭一.2006年3月


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