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亭主のために妻が前立腺マッサージを.夕刊フジ,p17,10月26日号,2006.


 「亭主のために妻が前立腺マッサージを」、というタイトルだけを読んだら、どんなイメージを持つだろうか。遊び好きの夫が作った借金のために風俗に身を投じる悲劇の人妻―といったストーリーを思い浮かべる人もいるだろう。ところが実際は違った。
 米・スタンフォード大学のA・ワイズ教授が発表した学術論文によれば、前立腺炎の患者の肛門から指を挿入し、直腸内のある部分をマッサージすることで痛みなどの症状を緩和できる―というのだ。ところがこの「ある部分」というのが、自分の指では中々到達しにくい部分にあるため、妻の協力を仰ぐべし―というのが話の骨子。
 詳しい内容を横浜市都筑区にある木村泌尿器科皮膚科の木村明院長に解説してもらおう。
 「前立腺炎には大きく分けて細菌性、非細菌性で炎症細胞があるタイプ、非細菌性で炎症細胞がないタイプ―の3種類があり、全体の6割を占める最後の非細菌性で炎症細胞がない前立腺炎にこのマッサージが有効と見られます。ワイズ教授の説では、この前立腺炎による痛みや不快感といった症状は、周辺部の血行不全が原因とするもの。つまり、肩こりと同じ原理ということになります」
 肩こりなら肩を叩いたり揉んだりすれば症状は和らぐ。前立腺炎も同様に刺激を加えれば血流が改善し、それに伴う症状は消えていく―という、じつに単純明快な理論なのだ。
 では、実際に直腸のどの部分をどのようにマッサージすればいいのか。
 「患者本人はクッションをおなかの下に置いてうつぶせになります。
施術者は肛門から人差し指を根元まで入れ、直腸越しに前立腺の周囲を触って、痛みを感じる部分があればそこがポイント。ここを指先で『痛みが我慢できる程度の強さ』で1分間押し続ける。論文では連続で4週間、あるいは隔週で8週間続けることで7割以上の患者に改善効果が現れたとなっています」(木村医師)。
 そもそも前立腺炎の治療に前立腺マッサージは以前から行われていた。しかしこれは細菌性の炎症が対象で、いわゆる風俗店で行われる性感マッサージの一種とは異なるもの。
風俗店で行われる前立腺マッサージは、前立腺だけでなくペニスも刺激するため、出てくるのは精液だ。しかし医療行為で行われるマッサージは、前立腺内部の細菌を排出するのが目的で出てくるのも精液ではなく前立腺液。勃起もしないし快感もない。
 もちろん今回報告された前立腺炎の痛みを和らげるマッサージも性的快感を得る確率は低い。
木村医師も「前立腺炎の患者は痛みのため性欲も低下していることが多いので、性的な目的は持ちにくい」と指摘する。
 純粋に「症状緩和」を目的とすることなら、奥さんも協力してくれるかもしれない。
「アナタ、お疲れでしたら前立腺でも揉みましょうか?」なんて会話が夫婦の間で交わされる日が来るかもしれません。
(長田昭二)
[前立腺炎]