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木村明:前立腺肥大.
クリニックQ&A,夏号,p16-17,2009.



前立腺肥大の症状があるが、病院 に行くのを躊躇してしまう
 

Q.56歳男性。普段から尿が出にくく、前立腺肥大と自己診断し市販薬を服用していますがあまり改善されません。先日、気付いたらズボンの前の部分が濡れており、知らないうちに尿が漏れていたようですが、手術になるかもと思うと不安で、病院になかなか行けません。


回答者 木村泌尿器皮膚科院長 木村明


場合によっては腎不全になりかけていることも。怖がらずに専門医に受診を

肥大した前立腺が尿道を圧迫することで、尿が出にくくなる


 男性は年をとってくると、若いころに比べて尿が出にくくなります。その原因の中でもっとも多いのが、前立腺肥大症です。
 前立腺は、膀ぼうこう胱のすぐ下にあるクルミ大の臓器で、精液をつくる役目を果たしています(図1)。
 前立腺の真ん中を通っているのが尿道です。年をとるにつれて、前立腺はだんだん肥大するため尿道が圧迫されて、尿が出にくくなるのです(図2)。

 症状には、尿がすぐ出ない、少ししか出ない、出始めてから時間がかかる、尿をした後もスッキリせず残っているような感じがする(残尿感)、トイレが近くなる(頻尿)、夜間に行く回数がふえる(夜間頻尿)、などがあります。


腹部超音波と尿流測定で検査。腫瘍マーカーPSAも

ここに「国際前立腺症状スコア」を載せました。各質問項目に答えて合計点数を出しましょう。
 7点もしくはそれ以下の点数であれば軽度、8~18点が中等度、19点以上は重度の症状と判定されます。また、15点以上であれば、診察を受けるほうがよいと判断されます。ただし、この点数はあくまでも主観的なものに過ぎません。
 前立腺の肥大を正確に調べるには、腹部超音波検査で、前立腺の大きさを計測します。また、便器のような装置に向かって排尿してもらい、尿の勢いを計測します(尿流測定)。
 残尿がないか、腎臓が腫れていないか(膀胱に残尿が大量にあるまま放置していると、腎臓にも尿がたまって腎不全になることがあります)も、腹部超音波検査で調べます。
 前立腺肥大症から前立腺がんになることはありませんが、合併している可能性はあるため、血液検査で前立腺がんの腫瘍マーカーPSAを調べます。


排尿障害が強い場合は薬物療法で効果が出ない場合も

 前立腺肥大症の治療には、主に、薬物療法と手術療法があります。
 薬物療法の主流は、前立腺の中の筋肉をゆるめて抵抗を下げる薬(α1ブロッカー)です。ただし、排尿障害が強い症例には十分な効果が得られないことがあります。とくに、何度も尿閉(尿を排出できない状態)を繰り返す重度の前立腺肥大症には、手術療法が必要です。
 自覚症状がそれほどでない場合でも、腹部超音波検査で残尿が多く、腎不全になりかけていることが確認されれば、手術が必要です。
 手術法でもっともポピュラーなのは、尿道から電気メスつきの内視鏡を入れて肥大した前立腺を削り取っていく経尿道的前立腺切除術(TURP)です。


尿漏れがおきるのは過活動膀胱と溢流性尿失禁が考えられる

今回のご相談では、尿が漏れたという症状もあり、このことが一番の心配のようです。
 前立腺肥大症にために尿漏れが引き起こされる状態には、「過活動膀胱」と「溢流性尿失禁」があります。
 膀胱には、尿をためる(畜尿)という役目と、たまった尿を全部出し切る(排尿)という役目があります。排尿時には膀胱壁の筋肉が収縮し、畜尿期には収縮しません。しかし、前立腺肥大症では尿を搾しぼり出すために余分な力が必要になるため、膀胱壁が分厚くなります。分厚くなった膀胱が勝手に収縮して尿が漏れそうになるのが、過活動膀胱です。過活動膀胱では、「急に尿意をもよおし、我慢するのが難しい」「トイレが近い」などの症状が見られます。
 過活動膀胱の治療には抗コリン薬という膀胱の収縮力を弱める薬が使われます。
 溢流性尿失禁は、前立腺肥大症がかなり進行し、膀胱に数百?の尿がいつも残っていて尿が溢れ出てくる状態です。腎不全になりかけている場合が多いので、手術をおすすめします。
 嫌がる患者さんを無理やり手術することは絶対ありませんので、ぜひ専門医に受診してください。
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