PSA異常の方が前立腺生検を受けるか悩んだ時に読むページ

癌の可能性が高い人だけに日帰り6箇所生検を行っている横浜市都筑区の木村泌尿器皮膚科です。
健診でPSA異常を指摘され、入院検査を指示されて悩まれている方に読んで欲しいページです。

人間ドックでの前立腺癌発見率の集計結果

東京共済病院
木村明
PL東京健康管理センター
斉藤功、樫原英俊、田村政紀

NHKのそばにあるPL東京健康管理センターは、1970年にパーフェクトリバティー教団が開設したメンバー制の人間ドック施設で、 1日の受診者数が平均150人、年間の受診者数37,000人の、国内最大の施設です。 受診者は、個人会員と契約企業の社員との比率が半々で、半年から1年ごとに健診を繰り返している方が多くしめています。

同センターでは、1995年に前立腺腫瘍マーカーをPAPからPSAに変更し、60歳以上の男性全員と直腸診で異常を認めた者、 及び希望者に測定してきました。 斉藤らは1996年1月から1997年6月までの前立腺癌発見率の成績をまとめ、日本総合健診医学会で報告しました。

5457人が延べ9289回PSA測定を受け、うち577人(10.6%)がPSA 4以上でした。 このうち329人が2次検診必要と判断されました。 その判断にははっきりとしたマニュアルはなく、面接を担当する医師の裁量に任されています。 実際に医療施設を受診したのは296人(5.4%)、前立腺癌であったとの報告が同センターに届いているのは35人(0.6%)でした。

1997年7月から2000年12月までに9844人が延べ25634回PSA測定を受けていました。 うち718人(7.3%)がPSA 4以上でした。このうち344人が2次検診必要と判断されました。 実際に医療施設を受診したのは224人(2.3%)、前立腺癌は72人(0.7%)でした。

9844人の年齢別PSA分布を示します。6割を60歳代の人が占めていました。 50歳未満ではPSA4以上が1%程度、80歳以上ではPSA4以上が25%程度と、高齢になるほどPSA値が異常な人の率が高くなっています。

PL東京健康管理センターで使用しているキットはランリームPSAです。

1997年6月までと1997年7月からの集計結果を並べて示しました。 1997年7月以降のデータはこのフォーラムのためにまとめて頂きました。 両時期にまたがって健診を受けている人は両方にカウントされています。

癌患者数には重複はありません。 後期のほうがPSA異常者の率、精検指示の率も低いのに、癌発見率はむしろ向上しています。 これは複数回のデータから、PSAが上昇した症例に精検指示が出されたためと思われます。 ただし、PSA velocityいくら以上は精検という明確な基準は設けてありません。

PL東京健康管理センターに前立腺癌の報告が届いている107人のうち、43人(40%)が東京共済病院で診断された症例です。 ただし、他の病院からの報告が滞っているだけでもっと多くの癌患者が発見されている可能性も否定できません。 精検を指示された者のうち、何割が東京共済病院を訪れたかも不明です。

東京共済病院に紹介された患者のうち、1996年7月から2001年6月までに針生検を施行した症例は177例(延べ生検回数199回)で、うち52例に前立腺癌が発見されました。年度別、PSA値別の癌発見率をスライドに示しました。PSAが10以上の症例での癌発見率は期間を通じて30%以上でしたが、PSAが10未満の症例での癌発見率は年度により大きく異なりました。

PSAが10未満で針生検を行った症例でのPSA、前立腺体積、PSA densityの平均値を示しました。当初はPSAがわずかに4を越えただけの症例は針生検を行なっていませんでした。1997年、超音波ガイド下に安全に針生検を行えるようになり、PSAがあまり高くなくて、超音波検査上も肥大症の所見の患者にも積極的に針生検を行いました。針生検数が増えたぶん、発見率が低下しました。1999年からはPSA densityをある程度参考にして、肥大症と思われる症例には、TURPもしくは内服治療を行いながらの経過観察などの選択肢を患者に提示するようにしました。無駄な針生検が減少し、癌発見率が向上しました。

PSA densityはPSAが10未満で針生検が不要な群を抽出するのに有効と思われますが、cut off値をどこにおくかが、感受性、特異性の絡みで難しい問題です。私の施設では、スライドに示したような関数から癌の確率を計算して、PSA densityが低い人には、この確率を示しながら、すぐに針生検しなくてもいいのではないか、といった説明を行っています。