健康最前線

「過活動膀胱」後編

2015年5月8日  テレビ神奈川「ありがとッ」

木村泌尿器皮膚科

木村 明

『前立腺は膀胱のすぐ下にあり尿道を取り囲んで います。加齢とともに前立腺が腫れて尿道をしめ つけ尿が出にくくなるのが前立腺肥大症です。』

第1選択の治療薬はアドレナリンの働きを抑えて 前立腺の筋肉をゆるめるα1遮断薬です。

これは よく使われる問診票の内容です。尿がとぎれる、 勢いが弱いという排尿症状に加えて我慢するのが 難しい、頻尿、夜間頻尿など蓄尿症状の項目が あります。これらは過活動膀胱の質問票と同じで すから、前立腺肥大症の人も過活動膀胱の症状で 悩まされているということになります。

2006年アメリカで前立腺肥大症の人にα1 遮断薬のみを投与するのと抗コリン剤も加えるの とどちらがよいか大規模比較試験が行われました α1遮断薬のみの方が排尿症状は改善され、併用し た方が蓄尿症状は改善した。患者満足度は併用し た方が良かったという結果でした。この論文が 紹介されてから日本でも前立腺肥大症の人にα1 薬と抗コリン剤の両方が処方されることが増えま した。2011年以降はα1遮断薬とβ作動薬と の併用も一般化しています。

前立腺肥大症の方が「風邪を引いたらおしっこが出な くなった」と来院することがあります。下腹部が膨ら んでいて苦しそうです。尿道からカテーテルを入れて 導尿すると、400mlから1ℓ尿が出てきて、腹痛 は治まります。風邪を引いたから尿閉になったのでは なく、風邪薬を飲んだから尿閉になったのです。総合 感冒薬の中には抗コリン剤が入っていて、それが膀胱 の収縮力を抑えたためです。抗コリン剤は前立腺肥大 症には使ってはいけない薬とされていました。消化器 の痙攣性痛みに使われる有名な薬ブチルスコポラミ ン、商品名ブスコパンは前立腺肥大症には使っては いけないとされています。過活動膀胱に使われる抗コ リン剤は、今までの薬とは違う効き方をしていると いうことが実験で明らかになり始めています。