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目黒区医師会第5回学術講演会




排尿障害の診断と治療
東京共済病院泌尿器科
木村明


 近年、尿路感染に有効な経口抗菌剤、前立腺や膀胱に特異的に作用するαブロッカーや抗コリン剤が次々と開発され、排尿障害を有する患者の治療も外来診療で対応できるようになってきました。

 闘争時は蓄尿、休息時に排尿

 頻尿や尿失禁を訴える患者さんに、頻尿・尿失禁治療薬を処方された経験のある先生方も少なくないと思われます。
 尿失禁は,せき、くしゃみをした時にもれる腹圧性尿失禁,おしっこをしようと思うと、トイレまで間に合わない切迫性尿失禁,出そうとしても少しずつしかおしっこが出ず、たえずダラダラ出る溢流(いつりゅう)性尿失禁と、3種類に分けられます。
 腹圧性尿失禁の治療には尿道を収縮させるアドレナリン作動薬が有効ですし、切迫性尿失禁には膀胱を弛緩させるコリン作動性遮断薬が有効です。これに対し、溢流性尿失禁には、尿道を弛緩させるアドレナリン作動性遮断薬や膀胱を収縮させるコリン作動薬が有効です。このように、腹圧制尿失禁や切迫性尿失禁に使う薬と、溢流性尿失禁に使う薬とは、全く作用が逆です。動物は戦うときはアドレナリンをいっぱい出して排尿を我慢する、戦いの後はコリンを分泌して排尿する、と覚えておくと便利です。腹圧制尿失禁や切迫性尿失禁と溢流性尿失禁を鑑別するには、腹部エコー検査による残尿のチェックが大変有効です。
 重い腹圧制尿失禁には膀胱をつり上げる手術が行われます。泌尿器科にご紹介ください。

 前立腺肥大症にはアドレナリン(戦闘時のホルモン)のブロッカー(遮断薬)を

 排尿困難を訴える高齢男性に、アドレナリン作動性遮断薬(αブロッカー)などの前立腺肥大症治療薬を処方された経験のある先生方も少なくないと思われます。αブロッカーは尿道や前立腺の平滑筋を弛緩させる作用があります。血圧への影響の少ないαブロッカーが開発されてから、前立腺肥大症の手術件数が減少しています。それまでの前立腺肥大症治療薬(植物エキスやアンチアンドロゲン剤)に比べ、自覚症状を劇的に改善してくれます。ただ、これほど有効な内服薬が開発されると、排尿困難を訴える患者が、直接泌尿器科を受診しなくなり、前立腺癌の早期発見を遅らせる心配が出てきます。

 前立腺癌のスクリーニング

 αブロッカーで症状が落ち着いている患者さんでも、前立腺癌のスクリーニングのためにPSAのチェックが重要です。PSAとは、正常前立腺上皮で作られ,精液内に分泌される酵素(蛋白)です.前立腺癌細胞や前立腺肥大症の腺細胞でも合成されますが,正常の導管がないため精液内に分泌されず、血中に放出されるのです.

 PSA高値例の精検

 PSAが4以上の場合には、泌尿器科専門医に紹介いただきたいと思います。PSAの値が4から10の場合(グレーゾーンと呼ばれています)、癌が見つかることは2割程度で、前立腺肥大症による偽陽性の場合も多いため、触診と超音波検査だけに留めることもあります。PSAが10以上の場合には、短期入院での前立腺針生検を行います。5割程度の症例で癌が見つかります。

 針生検陰性例のその後

 針生検の結果がno malignancyと出た場合は、紹介元の医療機関に戻っていただきますが、半年毎のPSA検査をお願いしています。PSAが上昇し続ける例と、その後自然に下降する例とがほぼ半数づつで、PSAが上昇し続ける例で再生検を行うと、その半数で前立腺癌が見つかっています。