泌尿器科医・木村明の日記


一人の前立腺癌死を防ぐために12人を治療


PSA検診で前立腺癌の死亡率が20%低下することを、ランダム化比較試験で示した論文が出てから、1年半。
この論文は同時に、一人の前立腺癌死を減らすためには、1410人にPSA検診を行い、48人余計に前立腺癌患者を治療しなければならない、
という問題点も明らかにしました。
この論文の元データがいろいろ検討されています。
その結果、健診群に割り当てられた72890人のうち、初回のPSA検査を受けなかった人が17410人(23.9%)いたこと、
非健診群に割り当てられた89353人のうち、別の機会にPSA検診を受けた人が13579人(15.2%)いたであろう(あろう、という表現の理由は後述)こと、
これらを、検討対象から外すと、PSA検診で前立腺癌の死亡率を29~31%減らせる、という計算になるのだそうです。
この統計には、推測が1つ入っています。
非健診群に割り当てられたのに、PSA採血を受ける理由に、二つあります。
尿が出にくいなどで、泌尿器科を受診して前立腺癌疑いで採血する場合、
内科で一般検査目的で採血する際に、ついでにPSAも測ってもらう場合です。
この割合については、ロッテルダム地区のみで明らかにされているのですが、その割合を全体に当てはめて、13579人という値を計算しています。
そして、健診群44401人中112.8人(0.25%)が癌死、非健診群54419人中203件(0.37%)が癌死と計算しています。
ひとりひとりを追いかけなおすのは大変なので、途中から推測が入るわけです。
20000人を対象にした、PSA検診の結果が、最近スウェーデンから発表されました。
この論文の結論は、一人の前立腺癌死を減らすためには、293人にPSA検診を行い、12人余計に前立腺癌患者を治療する必要がある、
ということでした。結論の数字の大きな違いは、非健診群に割り当てられたのに、PSA採血を受ける人がスウェーデンでは少なかったことが一因のようです。